33歳、働くママの夢の叶え方
夕方の4時20分。
帰宅直前のアシュリーが、早足で私のオフィスにやってくる。
アシュリー:「教員免許プログラムへの申し込みが受理されたの!」
私:「え!良かったじゃない!おめでとう!!」
ア:「ありがとう!すごく嬉しくて、伝えたくて。」
私:「良かったね。」
アシュリーがうちのチームに加入して2年。
アシスタントと言えば聞こえは良いけれど、ミーティングのセットアップや、サプライ補充などの雑用もやってきた彼女。チームのメイン業務である、不動産ローンのことも少しずつ覚えているようだけれど、それでも33歳の彼女が将来を描くには物足りないようだった。
そんなアシュリーとの午後の散歩が日課になったころ、彼女は将来は教師、それも”Special Ed”(スペシャル・エド:正式名称はSpecial Education)と呼ばれる特別なケアが必要な子供たちの先生になりたいと教えてくれた。
彼女の14歳の長女は生まれたときから心臓に問題があり、今でも半年に一度は大きな処置が必要らしい。そんな背景もあって、Special Edという場所は彼女にとって、強い思い入れのある場所だそうだ。
当時、シングルマザーとしてハンディキャップのある娘を産んで、仕事に復帰したアシュリーは、自分よりも子供や家族を優先してきた。その後、現在のご主人と出会い、8歳の長男、3歳の次女をもうけている。
銀行で働きながら子育てをし、少しずつNational Universityで単位をとり、4年制大学を卒業。そのまま銀行で働き続けるも、「これは私の夢じゃない」という気持ちがずっとあったらしい。
面倒見が良く、子供が大好きな彼女は、今回、同じくNational Universityでの教員プログラムにサインアップし、そのアプリケーションが受理されたのだ。
“It’s about time.”(やっと行動に移したね。)
と、旦那さんは冗談交じりにとても喜んでくれたそうだ。
アシュリー:「去年から、あなたと散歩に行くたびに、彼にも言ってたのよ。『いつかは学校に戻って、やりたいことを勉強する』って。」
私:「そうなんだ。やったじゃない。偉いよ。」
ア:「なんだか、一歩前進した感じ。」
私:「うん、わかるわかる。」
人がモチベーションに溢れている姿を見るのは良いものだ、とつくづく思う。そのエネルギーはとても自発的なもので、「やりたいからやるのだ」という”Will”(信念)がそこにはある。
私:「そっかぁ、私も頑張らないとね!良い刺激をありがとう。」
ア:「そんな、こちらこそありがとう。ああやって、えりなと散歩しながら話すことで、決断できたんだから。」
私:「そういうタイミングだったのね。」
ア:「そうだと思う。下の子が幼稚園に入って、急に手がかからなくなったと感じるの。」
私:「そうなんだよね!私も同じことを感じたよ。うちの下の子が生まれて、育児休暇に入ったとき、もう二度と『自分の人生』なんて持てないんじゃないかって思った。自分の夢を叶えるチャンスなんて、もう来ないんじゃないかって。
でも、違ったの。子供たちは大きくなるにつれて、自然と私の手から離れていく。『ママ、もう大丈夫だよ』『自分のことをやっても良いよ』ってどこかで教えてくれるんだよね。」
ア:「うん・・・。」
私:「うちの子供たちは8時半には寝るんだけど、それから自分が寝るまでの2~3時間、何しよう?って持て余すようになった。何しよう?って考えても、テレビを見るとかネットくらいしかなくて・・・で、それじゃマズイ、じゃあ勉強しようって思えたの。(笑)」
ア:「そうなんだ。(笑)」
私:「子供の2,3年なんて本当にすぐよ。今はあなたも、下の子のプリスクールでお金もかかるだろうけど、小学校に入ったらそれも格段に減るし。」
ア:「それは大きいわよね!あなたも毎月、たくさん払ってたのよね。」
私:「うん、ピークのときで毎月1,200ドル、二人分のプリスクールに払ってた。今は学童保育で月400ドル以下かな。」
ア:「その負担は大きいわ・・・。」
私:「これで浮いた800ドルは有効に使いたいし、次は自分のやりたいこと、大学院のために使おうって思ってるの。」
ア:「そうなんだ。」
“We have a lot ahead of us.” (私たちの目の前には、まだまだたくさんの可能性があるからね。)
“That’s right.” (その通りね。)
そう言って、アシュリーは家に帰って行った。