日米の算数・数学教育の違い

こんにちは、Erinaです。

 

日本とアメリカの違いは、算数・数学にもあるようです。

私はアメリカで大学数学からスタートしたので、自分で身をもって学んだ部分は少ないのですが、うちの子ども達の算数や、チュータリングを通して感じた日米の算数・数学の違いを、私の視点で書いてみたいと思います。

また、日本での数学教育のおかげで、「アメリカの教育スタイルではここが足りないから、うちでは足そう」とか、逆に、アメリカの数学教育のおかげで、「こういうことはこうやって教えよう」ということもあります。

 

まず、日本の算数・数学文化をあるもので表せと言われたら、それは「九九(くく)」です。

日本の、特に初期段階での算数の概念は、この九九に凝縮されていると言っても過言ではありません。九九は日本では2年生でやります。(よね?今でもそうかな?)

 

私の記憶では、まずは5の段をやり、2の段→3の段→4の段→6の段・・・・と進んでいきました。算数の時間には、一人ひとり、先生の机のところに呼ばれ、暗記した段を見事すべて言えたらクリア。間違ったら、席に戻ってやり直し。

この学年の子どもをもつお家のトイレには九九表が貼られていて、学校の行き帰りにもみんなブツブツと呪文のように九九を唱えていました。

それが功を奏してか、小学校高学年には、ほとんどの子どもが「しちはゴジューロク!」とパッと言えて、一桁 x 一桁のかけ算につまづくことはありません。

この九九を暗記することで、とにかく計算の瞬発力が鍛えられます。

 

それが日本。

 

 

アメリカではかけ算はMultiplication と呼ばれ、Multiplication tableを使って3年生で学びます。

 

(Multiplication Table from study-skills-for-all-ages.com)
(Multiplication Table from study-skills-for-all-ages.com)

 

 

でも、日本のような九九はないので、中学・高校でも6×8につまづく子どもがたくさんいます。

 

それでもオーケーなのは、アメリカの中学・高校では、計算は計算機を使うようになるからです。

しかし、日ごろからシンプルな暗算をしないので、計算の瞬発力が鍛えられず、大学に行っても、よほど暗算好きじゃない限り、計算機に頼る学生がものすごーく多いです。

 

この危険性は、暗算ができるできないという単純なことではなく、問題を解いている最中にバックパックから計算機を出し、電源を入れ、計算をし・・・とやっているうちに、「で、問題はなんだったっけ・・・?」とそこまでの思考の流れを途切れさせてしまうんですね。

 

こうなると、とても思考力の効率が悪いわけです。

 

これを防ぐために、我が家では公文式風な算数を取り入れています。

 

レターサイズの紙の半分に、計算問題を10問。

我が家では足し算・引き算をレベル別にして大量にプリントアウトします。

 

 

こんな感じのものを、半分に切って使います。
こんな感じのものを、半分に切って使います。

 

 

それを宿題タイムに、娘と息子に一枚ずつやらせ、私がiPhoneでタイムを測ります。(公文式は時間制限はなかったかな?)

だいたい1分くらいでできるものを用意します。

ここでのポイントは、10問を時間内にできることが大事なので、難しすぎるのはダメ。学年ではなく、子どものレベルに見合ったものをやらせてください。

 

で、終わったら親がその場で採点。

ミスしたらすぐに間違いを直させます。

 

これを我が家は毎日、だいたい5~6枚くらいやっていますが、息子の暗算力はものすごく上がってきたし、キンダーの娘は、くり上がり足し算をまだ知らないので、20+12を指を使って足しています。笑

 

この練習のポイントは、単に暗算力を鍛えるだけでなく、小さい課題を数多くこなすことで得られる自信と達成感。同じ50問でも、一枚の大きな紙にある50問より、小さな紙にある10問を5回やるほうが、心理的にも満足です。

また、タイムを測ることで、プレッシャーのもとで脳がすごく活性化されるし、子どもたちも”Math race”と呼んで、ゲーム感覚で取り掛かっています。

これはどの学年でもオススメです。

 

 

 

では逆に、アメリカの数学教育が長けている部分。

これは、暗記や計算ではなく「思考」を重視するところ。

 

つまり、日本の暗記文化とアメリカの思考文化は、それぞれに長所でもあり、短所でもあるわけです。

 

日本は三角形面積の公式に始まり、円錐体積の公式、扇形面積の公式、三角関数の公式・・・と、やたらと暗記しなければならないことがあります。

それこそ九九に始まり、「算数は暗記科目」と思い込んできた人はどれくらいいるでしょうか?ハーイ、私もその一人でした。

 

あんなね、うじゃうじゃある三角関数の公式なんて覚えられませんって。

私は自慢じゃありませんが、公式なんて全く覚えてません。だけど数学メジャーで卒業できます。調べればわかるもの、自分で一から作れるものには、脳の容量を使わない主義だからです。笑

 

じゃあ、どこに脳みそを使うべきか?

 

それは、「体積を出すには、底面積に高さをかけるんだ」と自分で見つけられること。

 

円錐(英語で言うCone)の体積だって、底面は円で、高さをかけて、あ~確か1/3にするんだっけ。と自分で見つけられます。「ナントカパイh」とか言えなくてもオーケー。

 

円錐 (Cone)の体積 from mathwarehouse.com
円錐 (Cone)の体積 from mathwarehouse.com

 

 

そうすれば、その立体が円錐じゃなくても、サイコロ(立方体っていうんだっけ?英語ではCube)だろうと、段ボール箱だろうと、ピラミッドだろうと、応用できるわけです。

そもそも、「立方体」とか「円錐」なんて大人ですら日常生活で使わない言葉の、ましてその体積を子どもに暗記させるなんて不合理すぎる。私は新しい単語を一つ覚えるには、頭の中にすでにある単語を一つ捨てなければならないので、まずはそこから不利だ。笑

 

 

 

加えて、私がアメリカの大学で数学の面白さを見出したときは、「数学は(”discourse”と呼ばれる)対話から生まれる」ということがわかったときでした。(これについてはこちらの記事で詳しく書いています

 

今までの数学は「一人で黙々とやる教科」だったのですが、内容が難しくなるに連れて、「アイディアを出し合う教科 (bouncing ideas back and forth)」になりました。

 

「これって、こういうアプローチもあるよね」

「あぁ、それだとそこにたどり着く前にこういう情報が必要になるよ」

「あ、そうか。じゃあそっちのやり方のほうが確実だね」

 

と、そういう対話から答えが導き出せるのです。

 

もちろんそれ以前に一人で考える時間や、手を動かす時間はたくさんあるのですが、他人とこうやってアイディアを照らし合わせることで、自分の理解や思考が深まるという作業が超面白いんです。それが私にとっての数学の醍醐味。

こういう作業をしていると、教授たちは単なるインストラクターではなくて、まさに「メンター」とか「師匠」になるわけで、ちょっと上のところから学生たちのやりとりを聞いているという役割で、間違った方向に行ったら軌道修正はしてくれるけど、答えを導き出すのはあくまで学生自身ということになります。

 

アメリカの算数・数学教育というのは、確かに初期からこういう作業が組み込まれていて、特に昨今話題のCommon Core(コモン・コア)でも、子どもが自主的に理論をもとに作り出したり、導き出すという教育になっているように思えます。

つまり、英語で”Wiggle room”と呼ばれる「自由に身動きできるスペース」があるわけです。

 

 

「公式」というカタチを重視する日本の算数・数学文化と、「自主的思考」を促進するアメリカの算数・数学文化。

 

それぞれに長所と短所があり、両方を知っている私たちは、良いとこどりをしながら算数・数学と上手に付き合っていけば良いかなと思っています。

 

この記事の続編はこちらで読めます

日米の算数・数学教育の違いについてもっと読みたい方は是非どうぞ。

 

日米の国語教育の違いについても書きました。

 

 

 

“日米の算数・数学教育の違い” への8件の返信

  1. そうそう、まさにそこに驚いてるところです!Erinaさ〜ん、ちょうどあさって書こうと思ってた内容先超されたわ〜w
    教授がみんなで話し合って答えを出すことをすすめるんですよね〜!宿題のことで、最初となりの学生に聞かれたとき、え、そんなの自分で考えてよ。わたくしが解いた答えなんかシェアしたらカンニングになるんじゃないの?って思ったり。でも結局自分が間違ってて、その若い学生に教えてもらっちゃったりして。

    確かにアメリカでは九九が大人でもできない人いますよね。前お花やさんで6ドルのお花を7本買おうとしたら、計算機で計算されてびっくりしました!でも、それでもちゃんと福利厚生のととのった流通でフルタイムで働けてるんだから、まあそれはそれでいいのかもねって思いました。あと、日本語は中国語、韓国語、トルコ語とならんで計算に向いた言語だから日本人は計算が速いというのもあるようです。じゃあインド人はどうなるんだと聞かれたら、うーん。。。わかりません〜。

  2. りょうこさん、ぜひ書いてくださ~い!りょうこさんの記事、面白いので楽しみです。
    私も明日、もう一本、似たような記事をあげます。

    わかります、わかります、「見せて」なんてありえないですよね。笑
    私、頑張ったんだから!って。で、自分が間違ってる。笑
    こちらの先生は、「誰が正解だったか」ってあまり気にしないんでしょうかねぇ?せっかく頑張ったのに。

    理系学生が45÷3とかできないと、がっくりしますねぇ・・・。え、そこで計算機登場?!ってびっくり。コモンコアより何より、そろばんとかやらせたほうが良いんじゃないでしょうか。

    計算に向いた言語ってあるんですか。知らなかった。
    確かに英語で九九って大変そう。舌を噛みそうです。
    みんないろんな言語でどうやって九九を習ってるのか、なんか興味深いですね。各国の算数リタラシーとかにも関係ありそう。

  3. わ〜い、面白いなんて言っていただいたので、調子にのってまたコメントしちゃいます。
    計算に向いた言語の記事はウォールストリートジャーナルにありました。
    http://www.wsj.com/articles/the-best-language-for-math-1410304008
    です。
    インドなんて九九どころか、もっと上いっちゃってますよね。
    周りのインド人の子どもさんたち、やる気満々だし、勤勉だし、絶対に勝てません〜。

  4. へぇ〜興味深い記事ですね。
    確かに英語の11~20はトリッキーです。

    ただ計算のあとの段階になってくると、私の場合は英語のほうがよかったです。
    日本語って、主語が抜け落ちてしまって、私の場合、問題文が理解できなかったんです。
    逆に、英語は日本語に比べてpreciseな言語なので、表現がわかりやすいらしいですよ。私も英語で数学をやったほうが、シンプルで(簡単という意味ではないです)わかりやすいと思いました。
    不思議ですね、言語によって数学の理解度が違うって。

    インド人すごいですね。
    2桁X2桁とか、日本人が計算機を使うと、「なんでそんなのも暗算できないの?!」って思われてるんでしょうか。笑

  5. こんにちは。僕は17歳の日本人で、現在UC編入を目指し、コミュニティーカレッジで日々勉強しております。

    日米数学比較の記事、非常に面白いと思いました。僕は日本と米国の数学教育、どちらもいいところと悪いところがあると思います。僕は中学校までを日本で、そして高校から現在に至るまでを米国で過ごしております。高校に入学し、英語が不自由な自分が得意な科目は、日本でとても嫌った数学でした。おそらく日本の数学教育が少し米国よりも進んでいるからですかとても簡単に感じ、それから数学の勉強に励むようになりました。英語があまり不自由ではなくなった今も、数学は得意な教科の一つです。

    僕自身もはっきりは分からないのですが、米国における数学教育の方が、なんとなく楽しい気がします。僕は来セメスターから、数学チューターの仕事を始めようと思っているので、少し自分自身で検証してみたいと思います。

    それでは、

  6. Kotaro Yamaさん、こんにちは!
    コメントありがとうございます。
    そうですね、日米の違いが、こんなところにも表れていて、両方良いところと悪いところがある。それを選べる私たちってラッキーですね。
    先日、計算機が必要なテストに計算機を忘れて行ったのですが(汗)、日本の義務教育で培った暗算力のおかげでなんとか免れました。笑
    こんな計算、日本なら日常茶飯事だなぁと思いながら。
    数学という学問の中では、日本語・英語関係ありませんから、そこにたどり着いたらあとはこっちのもんです。
    頑張ってくださいね!

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