転職か、残留か (3)
アメリカの銀行で働く日本人ママの物語。
前回までのお話はこちらからどうぞ。
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街中は完全にホリデームードのアメリカ。
忘年会代わりのチームランチも終わり、来週からはみんなが交代でバケーションに突入する。なかなか仕事にならない2週間がやってくる。
B社のHR担当者との面接後、彼に志望ポジションをメールしたのは10日前のことだ。
しかし、「オーケー、受け取りました」のメールすらよこさない彼に、私はちょっと不安になっていた。
というのも、B社のポジションは銀行経営に興味のあった私にとって魅力的だったし、HR担当者も私のクオリフィケーションに自信を持っていたので手ごたえがあったからだ。
確認メールも来ないまま、A社との電話面接。そしてインハウス面接も決まる。
「う~ん、B社から返事のないうちにA社と話が進んだら困るなぁ。」
「放っておきなさいよ」という旦那からのアドバイスを無視して、音沙汰無し10日目、HRの担当者に確認メールを送信。
「私のメール、届きましたか?」
その数時間後、「今、ハイヤリングマネジャーに報告しました。」
・・・・ってことは、対応してなかったのか。と少しガックリしたけど、そこまで急いではいないのであまり大事にはしないようにする。
その週明け、早速、一本の電話が入る。
B社のハイヤリングマネジャーからだった。
「うちのHRから、君のレジュメを受け取りました。クオリフィケーションを見て、ぜひインハウス面接をしたいです。いつ、来てくれますか?来週とか?」
かなり急いでいるようで、早速インハウス面接の日程の話になる。
私:「年内は忙しいです。1月はバケーションを取る予定なので、2週め以降でも良いですか?」
マネジャー:「オーケー、じゃあ12日の月曜日で。9時、いや10時かな。」
私:「わかりました。大丈夫です。」
マ:「詳細は後でメールするから。」
私:「了解です。一つ、質問しても良いですか?」
マ:「良いよ。」
おそらくこのハイヤリングマネジャーは技術屋だ。
話し方がガッツリ理系。申し訳ないけど、ちょっとスピードダウンさせてもらう。
私:「HR担当者から、あなたの会社内でいくつかのアナリストポジションを紹介してもらったのですが、このポジションはどちらの役割ですか?」
マ:「あぁ、ごめんね。うちはビジネスローンのポートフォリオ分析のチーム。SQLを使って、レポート作成と分析をするんだ。SQLは難しいことは要求されないはずだし、教えてあげるから大丈夫。」
私:「そうですか。じゃあ、私がこのポジションに適していると思われる理由は何ですか?」
マ:「うん、君は少しSQLの経験もあるみたいだし、分析には強そうだ。もちろん現在の不動産ローンの経験も重宝されると思う。」
私:「そうですか、わかりました。ありがとうございます。 」
マ:「僕のボスがブライアンっていうんだけど、12日は彼と僕が面接すると思う。」
私:「わかりました。じゃあ12日に。」
ガチャ。
あっという間の電話に、彼は超理系人間なんだろうと思った。
まぁ、こういう”Cut to the chase”(核心を突く)なコミュニケーションは嫌いじゃない。私ももともとは理系だったので、飾りのための挨拶が苦手という気持ちはわかる。
ただ、頭の切り替えが少し必要になるだろうなと予想した。
2007年に大学卒業し、新卒として就職した先はバリバリの大手理系企業だった。
地元の二流州立大学、それも学士号ホルダーなんてのは私だけで、みんな有名大学の理系修士号、博士号は当たり前。
転職先はGoogle, Apple, Microsoft, Amazon, ebay, Qualcomm, NASAなんて、美しい経歴の人たちばかり。
しかし、あらゆる流れが不透明なこの企業で、若かった私は明確なビジョンを持てずにいた。一流企業で高い年収をもらっていても、仕事がつまらなくてつまらなくてどうしようもなかった。
私はこのとき、「レジュメビルダー」(レジュメに箔をつけること)が目的だと思って仕事をした。
その後、第二子出産を機に退職。
次に仕事をするときは、理系色がもう少し弱いビジネスサイドに行こうと決め、選んだのが現在の銀行。
それは180度とまでは行かないけれども、120度くらい違う世界だった。
コミュニケーションは円滑でシンプル。
ビジネスの流れや、マネジメントの決断の流れが見えやすく、横のつながりがきちんとできている。問題を対処するには、誰に相談したらよいかがわかりやすくて、とても働きやすい職場だった。
「銀行」という新しい世界は、確実に私の興味を引いたし、前の職場のような「空っぽ」な感じは全くなかった。
しかし、景気が上向きになりつつあるも、そのスピードがなかなか加速していかないアメリカ。ここ1年ほどは、チームの案件も思うように増えていかない。
「ウチの利率は高すぎる。これじゃ他社と競争できない。」
「あの案件も他社に取られた。」
融資担当者たちは、なかなか案件をクローズできない事実に、トップマネジメントへの不満が募る。
新規案件候補が、パイプラインレポートに載っては消され、載っては消されの繰り返しで、見ていて気の毒になる。
「建設コスト上昇に、コントラクターが対応できてない。」
「年末にクローズは無理。」
「市のパーミットが下りない。」
コンストラクション(建設)ローンの案件数も、思ったほど増加しない現実に、チーム全体にフラストレーションが積もる。
「そろそろかな・・・。」
自然と、私の中で転職を意識する時間が長くなってくる。
そんな中、ここ10年間でおそらく一番大きいだろうマージャー(合併)が起こった。一年以上前からマージャープロセスは進んでいたものの、実際にクローズしたのは2014年春だった。
銀行というのは、吸収合併を繰り返して大きくなるのが常で、名前やロゴがコロコロと変わるのは日常茶飯事である。
うちの銀行が、ここ10年間に行った吸収合併はなんと21回だそうで、そのたびにレイオフやら企業内再編成(Re-Organization)などが行われるのだけれど、社員はたまったものじゃない。
今回のマージャーでも大きな再編成が行われることになった。
その対象となったのは、私のお隣のSBA(Small Business Administration)の部署だった。
4人いたSBAチームのうち、二人は合併先のオペレーションに組み込まれることになった。つまり、向こうの会社のシステムをアダプトする。
残りの二人は、なんとかうちの会社に留まれるようにマネジメントがアレンジするも、一人は他社への転職が決まり、もう一人はうちのチームに来ることになった。
それがリンダである。
リンダはパートタイムの「シニアアナリスト」となり、私の上のアナリストポジションに入った。
コーポレートラダー的に言えば、「目の上のたんこぶ」である。
その直後、リンダと私の上に、バーバラは新しくエディも加入。しかし、その業務は切迫した状況ではないはずで、エディがアイドリングするのは目に見えている。
「あれ?私の下に誰かを入れてくれるんじゃなかったの?」
バーバラのチーム編成に対して、疑問を持つようになった。
仕方ないからマイペースにやろうと決めたのもつかの間、バーバラは私への仕事量をゴッソリと増やし、プロジェクトのリーダーにも指名した。それもアシスタントと一緒にマイペースにこなすと、3ヶ月で結果が出るようになった。
「これで、バーバラは私の仕事を認めざるを得ない。もし認めないなら、それまでだと思って、転職を進めよう。」
それが今年の秋のことだった。
「私はやるべきことをやり、期待以上の成果を出した。それが評価されないのであれば、ここにいる意味はない。」
チーム拡大は良いけれど、案件数はそれに伴って大きくならない事実。同じチームでアイドリングしている人がいるときに、私はそれと同じ評価を受けたくない。
そして12月。
気づけば、私は他社のHR担当者とミーティングをしている。
担当者:「どんなCorporate Culture(会社風紀)であなたはベストパフォーマンスできますか?」
私:「ビジネスの流れが見えやすく、自分の役割がその中でどの部分かが見える。自分のコントリビューションがどうやって会社にとって役立つのかが見える、そういう意味で透明な文化です。」
担:「うん、なるほど。じゃあ、あなたの強みは何ですか?」
私:「私はいつも、数学とビジネスという二つの間で仕事してきました。『二つ知っている』というのが武器になるように、両方を理解し、両方にとって何が最善策かという答えを出せるところです。」
担:「オーケー!」
次に進むときが来ているのだ。
いつもうんうん、と頷きながら読ませていただいております。私は転職を考えるものの、英語力も能力も経験も足りないという、自信のなさが足を引っ張っていつまでも転職活動さえ始められていない状態です。Erinaさんのお話に感化されて、海外移住を決めたときのようにえいっ!と一歩踏み出して、もう前に進むしかなくなる状況に自分を追い込んでしまおうと考えています。そうすれば、どうにかしようと頑張るものですよね。続編、楽しみにしております!
Akiさん、こんにちは!
コメントありがとうございます。
そうですね、私も確かに自分を追い込む環境にしていることはあるかもしれません。やってみないとわからないことってたくさんあるし、恥ずかしいという気持ちは捨てて(良いのかしら?)、間違っても良いじゃない、と思えることは増えましたね。
わからないときは聞けば良いや、と思えたらチャンスは格段に増えます。
応援してま~す!