転職か、残留か (4)

 

アメリカの銀行で働く、日本人ママの物語。

前回までのお話はこちら

 

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三週間の年末年始ホリデーも今日で終わり。

明日からは子供たちの新学期も始まり、生活は通常運転に戻る。

そんな中、休み明けに早速、本命B社との面接がスケジュールされている。

日曜の終わりに近づくにつれて、そんなことを実感しだす。

 

面接ももう何回やったことだろうか。学生インターンも入れたら、10回は超えている。

肝が据わったのかただ単に慣れたのか、面接やプレゼンを前にして、やたらと緊張することはなくなった。

 

“It’s your day.”

 

旦那がそう言って勇気付けてくれる。

 

「いつから私は銀行員の道を歩くことになったんだろう?」

 

シャワーを浴びながら、人生とは本当に不思議なものだと感じる。

「銀行なんてお堅い仕事ですね。」と言われるのだけれど、自分でもまさか銀行に勤めるとは思わなかった。

銀行員という職業に不満はない。

ただ、「銀行員」と言っても、銀行の業務はとても幅広く、きっと私がやっていることは人が思う「銀行員」ではないはずだ。

 

銀行にもレイオフがあり、それは景気に直接的に影響される。「銀行員=安定」の等式は、ここアメリカでは全く通用しない現実をこの3年半で見てきた。

 

月曜の朝。

子供たちを学校に送っていく。

新学期で先生たちも顔が明るい。

 

親たちは「やっと学校が始まった・・・。」という安堵感に溢れているように見える。

家に戻ってくると、朝食に目玉焼き一個とトーストを食べ、30分前に送っておいた面接の確認メールの返事をチェックする。

私:「今朝の面接の確認をさせてください。」

マネジャー:「はい、今日で正しいですよ。では後ほど。」

理系のハイヤリングマネジャーから簡潔なメールが入っている。

 

よし、行くか。

 

気がまぎれる音楽をかけながら準備をする。

まずは、Google Mapで渋滞の様子をチェック。ラッシュアワーには渋滞がひどい道だから念のためチェックしてみるけど、この時間なら問題ないようだ。

服は、いつもの白と黒のワンピースに、ストッキングと茶色のブーツでオーケーかな。運転しにくいから、とりあえずスニーカーで行って向こうで履き替えよう。

 

道路は空いていて、快適だった。

 

面接場所も、前回HRの担当者とミーティングをした建物だから安心。パーキングの要領もわかっている。

 

よしよし、オーケー。

適度に緊張しているけど、言いたいことを言えない程度ではない。パーキングからコートヤードを抜ける。背筋を伸ばして、まっすぐに歩く。深呼吸。

 

レセプションについて、サインインする。

私:「10時にラリーさんとアポイントメントがあります。」

 

レセプション:「はい、ではこのビジターバッジをつけてください。彼はちょうど今、あなたの後ろに来ましたよ。」

 

私:「ありがとうございます。」

 

振り向くと、ハイヤリングマネジャーのラリーさんが立っている。ラップトップのケースを持って、ストライプのYシャツ。

 

ラリーさん:「おはよう。Nice to meet you.」

私:「おはようございます。Nice to meet you too.」

 

レセプションを出て、エレベーターホールに向かう。

 

ラ:「How’s your day so far?」

私:「えぇ、良いですよ。今日から子供の学校も始まりまして。」

 

一瞬の沈黙。

学校に行く子供がいるって思われなかったのかな?

 

ラ:「そうかい。週末はどうだった?」

私:「えぇ、スローでしたけどのんびりしてました。あなたは?」

ラ:「僕は父とUCLAにバスケットの試合を見に行ったよ。」

私:「そうですか。母校ですか?」

ラ:「うん、そうなんだ。スポーツが面白い学校でね。」

私:「そうですよね。」

 

エレベーターに乗り込む。

 

沈黙・・・・。

あまりおしゃべり好きな人じゃないかんじだな。まぁ良いけど、私もアンフレンドリーだとは思われたくないなぁ・・・。

なんてどうでも良いことが心配になる。

 

ミーティングルームに入るなり、早速、質問が始まる。

 

ラ:「で、どうしてこのポジションに興味があるの?」

 

おぉ、速いなぁ。

 

私:「え~と、現職場での機会が限られている気がしてきて。サンディエゴの商用不動産ローン、という枠の中ではできることが限られています。あと、現職での分析というのは、過去データのevaluationがメインになっていて、プロジェクションがほとんどないので、それも物足りなく感じています。」

ラ:「なるほどね。」

私:「もう少し数学的なものを使いたいと思って。」

ラ:「数学的なことってどんなこと?」

私:「そうですね、統計のレグレッションモデルとか分布とか。現チームのポートフォリオだけではそれはできないので。」

ラ:「そうか、統計って言われて思い出したけど、僕のバックグラウンドは統計なんだ。現在進行中のプロジェクトなんだけど、銀行のデータを使ってそういう分析もやろうとしているところでね。僕としてはもっとそこに力を入れたいと思っている。」

私:「そうですか。」

 

ラリーさんは、このチームの役割などを事細かに説明してくれると、その後、私の現ポジションでの役割と、前職での役割を質問する。

 

私:「今の職場ではこんなことをやっています。前の職場では、こういうデータをきれいにして、モデリングチームにプレゼンするのが仕事でした。・・・・・・」

ラ:「うん、一通りわかった。何か質問はある?」

私:「えぇ、2つあります。一つは使うソフトウェアについて。プログラミングはだいぶしますか?」

ラ:「う~ん、そうだなぁ。うちではSASもRも使わない。このポジションではSQLがメインになると思う。」

私:「そうですか。もう一つ質問して良いですか?」

ラ:「良いよ。」

私:「これまでの話と私のレジュメを見て、このポジションが、私のキャリアアドバンスメント(出世)に有効な理由はなんですか?」

ラ:「うん。」

 

そう言うと、ラリーさんは一呼吸おいて口調のスピードを落とす。よし、良い質問だったみたいだ。

 

ラ:「うちのチームは、コレと決まった仕事を毎日やるわけではなくて、社内の様々な部門で必要なプロジェクトや問題解決をするチームなんだ。だから社内のブレインと言われていて、結果としてマネジメント候補者のトレーニングみたいになっている。

僕が君を気に入ったのは、問題解決力に長けていること、そして新しい課題を見つけて、自分で取り掛かれること。

さっきも言ったよね、新しいプログラミング言語も自分で本を読んで勉強したって。」

私:「はい。」

ラ:「うちみたいなチームって、『資格とか学歴みたいな何かがあればクオリファイ』という基準はなくて、単純にそういう人材が必要なんだよ。」

私:「そうですか。」

ラ:「だから普通はインターナル(社内)で引っ張るんだ。時間もかかるけどね。」

私:「そうでしたか。」

 

その候補に入れてもらえることをすごく光栄に感じた。

 

ラ:「まだ質問はある?なければ僕のボスのブライアンに会ってもらいたい。確か彼はオフィスにいたはず・・・確認してくるからちょっと待ってて。」

私:「ハイ。」

 

そう言うと、ラリーさんはブライアンがオフィスにいることを確認する。

 

ラ:「オーケー、彼は今オフィスにいるから、一緒に来てくれる?」

私:「はい。」

 

真新しいキュービクルの間を通り抜け、窓際のオフィスの一室に入る。

ラ:「ブライアン、こちらはエリナです。」

ブ:「ハイ、初めまして。今日は来てくれてありがとう。」

私:「いえ、こちらこそ、時間を作ってくれてありがとうございます。」

 

殺風景なオフィス。

資料も写真も何も無い。

引っ越してきたばかりとかなのだろうか?

 

このブライアン、面接前にリサーチしたけど、35歳で”Chief”の役職レベル。5年でそこまで出世した彼は、給料も私の8倍もらっているらしい。

その割には会社のロゴ付きポロシャツ+ジーンズという服装。

若い。でも自信があるのがわかる。

ブライアンは私のレジュメに目を通すと、ラリーさんと同じく現職と前職の役割を質問してくる。

 

ブ:「学校はSan Diego Stateか。僕も行ったんだ。良い学校だよね。」

 

ほどよくカジュアルなネタも織り込んでくれる。

アメリカでは母校へのプライドや卒業生の結束も固い。そこで大学のスポーツチームの話ができたりすると、思わぬ+αにもなる。

 

ブ:「この先の3年間で、君自身はこの会社でどうなっていると思う?」

 

来た。定番の質問だ。

すぐには答えずに、1・2・3・4・5くらいの時間をおいて深呼吸する。

 

私:「そうですね。最初の1~2年で、この会社の『やり方』を学びます。どんなローンを組むのか組まないのか。ビジネスの流れはどんなものなのか。コーポレートカルチャーはどんなものか。この会社のゴールはどこにあるのか。そしてそれを受けて3年目には、自分の分析がこの会社のやり方に影響できるようになります。」

ブ「うん。」

 

ブライアンは深くうなずいた。

 

新卒の時にはなかなか難しかった質問にも、こんなにうまく答えられるようになった。あれから7年か。

一通り質問に答え終わると、ブライアンが聞く。

 

ブ:「何か質問はある?」

 

またここでも一呼吸。

 

私:「えぇ、さっきラリーさんにも同じ質問をしたんですけど・・・。このポジションへの転職が、私のキャリアアドバンスメントにおいて、有意義だという理由を教えてもらえますか?」

ブ:「うん。このチームは社内全体のニーズに応えるための分析をするチームで、これと決まったことをやるわけではないんだ。現在進行中の社内プロジェクトがいくつかあって、それを計画したり、遂行する役割です。

僕は君の多様なバックグラウンドがすごく気に入りました。必要なソフトウェアも知っているし、商用ローンでの経験もある。ローンの経験がある人は、これまでにいたかなぁ?

とにかく、現時点で君がクオリファイしそうなポジションが4つくらいあるはず・・・ですよね、ラリーさん。」

 

ラリーさんがうなずく。

 

ブ:「だからそれを相談して、1~2週間以内にまたコンタクトします。良いかな?」

私:「はい、それで良いです。」

ブ:「他に質問はある?僕からの質問はもうおしまいです。」

私:「いえ、ありません。今日はありがとうございました。」

ブ:「こちらこそ、来てくれてありがとう。」

 

そう言って、ラリーさんと私はブライアンのオフィスを後にした。

エレベーターで一階まで降り、ビジターバッジを返すと、ラリーさんにもう一度お礼を言う。

 

私:「今日はありがとうございました。」

ラ:「うん、こちらこそ。また連絡します。」

私:「わかりました。」

 

パーキングに向かう。

 

どっと疲れた。

あっという間の一時間だったけど、めちゃめちゃ濃密だった。

頭がまだフル回転しているのがわかる。

久しぶりに感じるこの疲労感。

 

11時25分。

 

現職のパーキングにつくと、旦那に結果報告をする。

 

“It went well, I think.”

 

どこから話して良いのかわからず、あまり言葉にできない。

 

旦那:「そう、良かったね。詳細は夜にゆっくり聞くよ。」

私:「うん。じゃあまた後で。」

 

さ、気持ちを切り替えて仕事だ。

 

 

次回:転職か、残留か (5)

 

 

“転職か、残留か (4)” への3件の返信

  1. えりなさん、おはようございます。
    また、さりなです。
    実は明日、夏のインターンシップの面接があって、このえりなさんのシリーズで、場の雰囲気などをつかんでいるところです。
    ちなみに分野は違いますが、えりなさんのがインターンシップの採用の際に受けた面接の質問など、覚えていらっしゃいますか?
    突然の質問ですみません。。。

  2. さりなさん、おはようございます!
    お~、明日が面接ですか?頑張ってくださいね。

    インターンの面接の質問・・・遥か昔のこと(笑)であまり覚えてないのですが・・・仕事と専攻が関係あることなら、専攻の授業の基本的な部分をまずは答えられること。
    「あ、この子はちゃんと勉強してきた子だな」というのが学生インターンのふるいだと思うので、仕事の専門的なことよりも、与えられた課題をきちんとこなせる人間かどうかだと思いますよ。
    社長に「大学でテニスやってたんだ?」と聞かれたのは覚えてるんですけど・・・。役に立たないですね。笑

    あと、仕事に関してわからないことや知りたいことは、どんどん質問してください(給料とかベネフィットじゃないですよ)。
    「この仕事に興味があります!」という姿勢を見せることは大事だし、そこで仕事内容を理解できるようであれば、雇ってからスムーズですよ、というアピールにもなります。

    ハキハキと元気に話すことを心がけて、頑張ってきてください!Good luck!

  3. やっぱり学校の授業の基本のこととかも聞かれるんですね。昔の教科書、一通り見ておきます!
    聞きたい質問とかも一応、考えておきます!!
    頑張ります!!!!!!!!!(笑)

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