アメリカ式!上手いスピーチ・そうでもないスピーチを徹底分析【後編】
こんにちは、Erinaです。
アメリカ式にスピーチを分析・比較してみる記事、前回の続きです。
さて、前回は3つのTEDトークを見ていただきましたが、今回は実際にそれらを分析してみましょう。
アメリカではスピーチを評価する上で、”Rubric”(ルーブリック)という方式がよく使われます。
ルーブリックは、評価する項目が事前に分けられていて、各項目の中で、達成度が細かく描写されています。
実際に例を見てみましょう。
これは、とある Informative speech(情報提供のスピーチ)のルーブリックです。
このルーブリックのpdfファイルはこちらでダウンロードできます。
左半分は “Organization”、右半分は”Delivery”と分けられています。
そしてそのそれぞれが細かい項目に分けられていて、
Organization
- Purpose, Audience, Topic, Word choice(目的・聴衆・トピック・言葉選び)
- Introduction(導入)
- Body and Transitions(ボディと転換)
- Conclusion(結論)
- Support, Explanation of ideas(具体例・アイディアの説明)
Delivery
- Eye contact(アイコンタクト)
- Vocal rate, pitch, pauses, volume(声のスピード・ピッチ・間合い・音量)
- Vocal quality, articulation, pronunciation(声質・明瞭さ・発音)
- Verbal, posture, gesture(姿勢・ジェスチャー)
- Preparedness, composure, and polish(準備・落ち着き・洗練度)
と全部で10項目あります。
お分かりかと思いますが、 “Organization”は「準備段階」に関わるもので、”Delivery”というのは「本番」に関わるものです。
(deliveryはピザなどのデリバリーや、出産という意味で使われますが、「スピーチをする」という時に、”deliver a speech”と使われます。”make a speech”は計画や準備段階も含んだ「スピーチをする」ですが、”deliver a speech” だと、実際に本番でしゃべる部分だけを指します。)
そしてこれらの項目の達成度が、3〜5ポイントで描写されています。
たとえば、Organization の項目#1 Purpose/Audience/Topic/Word choiceを見てみると、
(5 points) You clearly made your topic & purpose relevant and interesting to your specified audience, using appropriate word choices and level of complexity.
とても明確に、トピックと目的を聴衆にとって興味深くて関連あるものにした。言葉の選び方や複雑さのレベルが適切である。
(4 points) You could make your purpose more clearer or your topic or word choices more relevant to your specified audience.
目的をもう少し明確にする必要がある。またはトピックや言葉選びを、この聴衆にとってもう少し関連あるものにする必要がある。
(3 points) Your purpose or relevance of topic were unclear or inappropriate for your specified audience.
スピーチの目的やトピックの関連性が、この聴衆にとって明確または適切ではない。
・・・と、このルーブリックを使って、松山さん、西野さん、堀江さんの3人のトークを私なりに採点してみました。
松山さん
Organization
クライテリア | ポイント | コメント |
Purpose, audience, topic, word choice | 5 | わかりやすい;一つの宗教にこだわらない考え |
Introduction | 5 | 幼少時代・教育 |
Body and Transitions | 5 | 例:日本人の宗教観、世界と地元の取り組み |
Conclusion | 5 | 一貫している |
Support, explanation of ideas | 5 | 一貫している(食、カレー) |
Delivery
クライテリア | ポイント | コメント |
Eye contact | 5 | 良い |
Vocal rate, pitch, pauses, volume | 5 | 良い |
Vocal quality, articulation, pronunciation | 5 | 良い |
Verbal, posture, gesture | 5 | 良い |
Preparedness, composure, polish | 5 | 良い |
西野さん
Organization
クライテリア | ポイント | コメント |
Purpose, Audience, Topic, Word choice | 4 | 言葉選びが雑;お笑いと同じレベル |
Introduction | 4 | メインテーマのプレビューがない |
Body and Transitions | 3 | エピソードばかりで構造がない |
Conclusion | 4 | それまでの内容とつながらない |
Support, Explanation of ideas | 4 | 各エピソードにオチがない |
Delivery
クライテリア | ポイント | コメント |
Eye contact | 5 | 良い |
Vocal rate, pitch, pauses, volume | 4 | もう少し間合いをとる |
Vocal quality, articulation, pronunciation | 5 | 良い |
Verbal, posture, gesture | 5 | 良い |
Preparedness, composure, polish | 4 | 話しのプロとしての洗練さに欠ける。お笑い番組とは差異を作ってほしい。 |
堀江さん
Organization
クライテリア | ポイント | コメント |
Purpose, Audience, Topic, Word choice | 4 | 社長目線。70 millionの単位? |
Introduction | 4 | Need clear preview. “Cost down?” |
Body and Transitions | 3 | 話があちこちにとぶ |
Conclusion | 4 | |
Support, Explanation of ideas | 4 |
Delivery
クライテリア | ポイント | コメント |
Eye contact | 4 | 改善されたけれど、弱い |
Vocal rate, pitch, pauses, volume | 4 | モノトーンでメリハリに欠ける |
Vocal quality, articulation, pronunciation | 4 | ハキハキしているわけではない |
Verbal, posture, gesture | 4 | 特に目立たない |
Preparedness, composure, polish | 4 | 話し手としての洗練さに欠ける |
という感じ。
西野さんはさすが芸人さんなので、デリバリーで高得点を集めていますが、オーガナイズが弱い。
彼の話を聞いていて思い出すのは、日本の伝統芸能の「落語」。落語は物語を伝えるので、導入→具体例→結論という構造とは少し異なります。やはり日本のスピーチは”Narrative”と呼ばれる物語式が多く、話に展開が必要な “informative speech” とは少し意識を切り替える必要があるのです。そうしないと、あの日本人のスピーチに独特のダラダラ感が抜けません。
堀江さんも似ています。
アイコンタクトなどのデリバリーは途中から改善されたものの、やはりオーガナイズが弱いですね。
おそらくメインテーマは「低予算の宇宙旅行」だと思うのですが、関連性の低いエピソードがあっちこっちから入ってくるので、聞き手は追いつけません。
また、お金の桁など、一般人に想像しづらいのに加えて、「ドル」を使っているところがさらにわかりにくい。「数字」というのは口上で伝えるのはとても難しいものなので、やはりこれは最小に留めるべき。アメリカの政治家たちも、演説で数字を言いたいときはかなり気を配っています。
では、松山さんのトークがなぜパーフェクトスコアだったかを分析してみます。
オーガナイズの面では、
このトークの目的は? 一つの宗教に縛られないということ
イントロは? 自分の幼少時代と教育
ボディは?
例1:日本人の宗教観
例2:ローカルと世界の取り組み
結論は? 世界中でも、一つの宗教に縛られない思想が広がると良い
と、全体を通してかなり一貫性があり、構造も明確です。
デリバリーも、話すスピードや、間合いを上手に使い、会場全体を見渡しながら伝えていることがよくわかります。一番奥の席に座っている人まで見渡せる余裕や、話が転換する時に、上手にトーンを変えています。
やはり、「聞き手を誰一人も失わないで最後まで連れていく」というスキルがとても高いわけですね。
こうやってルーブリックで分析してみた場合、どれが良いスピーチで、どれがそうでもないスピーチか、を見分けることができます。
ではなぜ、人は、西野さんや堀江さんのトークを聞いてしまうのか?
それはやはり、多くの人は、「内容」ではなく、「外見」で判断するからです。
つまり、西野さんは芸人さん、堀江さんは実業家、「二人ともテレビに出ている人」という事実が、スピーチ自体の質における判断を鈍らせるのです。
「誰が言ったかではなく、何を言ったかで判断するべきだ」とはよく言われます。
“Who said” or “What has been said” という違いです。
幸か不幸か、私は日本を離れて15年以上経ちますから、西野さんも堀江さんもよく知りません。
私にとっては、この3人は同等に「よく知らない人」なわけですから、日本の芸能界という余計なフィルターがかかっていませんでした。
そしてこういう見方や判断こそが、”Critical Thinking”(クリティカル・シンキング)につながるわけです。
つまり、「ホリエモンが言うんだから、さすがだな」とか、「これは西野さんにしか言えないよね」と表面的な要素だけで判断するのは、Critical thinkingをしていない証拠なのです。
どうでしょうか。
今回は、上手いスピーチとそうでもないスピーチを比較するために、この3人を選びました。個人的に西野さんや堀江さんが嫌いなわけでは全くありませんのでご了承を。笑
追記:尼崎のFM「8時だよ!神さま仏さま」をぜひ聴きたいです。
TEDってプレゼンターの教育をして質の高いプレゼンを提供するんだと思っていましたけど。日本のTEDがまだそこまで行ってないのでしょうか。
カナダに来るまでロクにプレゼンなんて勉強しませんでしたけど、作文はよくやったのでその要領を利用してできるだけことをします。
プレゼンターの立場的な要素を考えると、カナダの白人カナダ人の多い所で訛りのあるアジア人の女の「子(!)」に対する期待が低いのは現実です。日常の場であっても、自分の意見を言う時はプレゼン式に考えています。そうすると、私の見かけではなくて、意見そのものをきちんと聞いてくれる人たちに出会えるものだと感じています。