アメリカの授業スタイル:ソクラテス・セミナー

こんにちは、Erinaです。

 

今年もよろしくお願いいたします。

新年一本めということで、早速、こんな記事を書いてみました。

(全く季節感のない内容ですが、こんな私に今年もお付き合いください・・・)

 

今日は、アメリカの学校でポピュラーな「ソクラテス・セミナー」についてです。

 

アメリカの授業スタイルは、日本のそれとはかなり違い、初めて授業見学に行くと驚くことが多々あります。

日本の学校システムで育った私も、教壇に先生が一人立ち、列に並べられた机に生徒たちが静まり返った中で、先生がずっとしゃべっているという教室風景に慣れていたので、最初にアメリカのクラスルームに入った時は驚きました。

 

私にとっての最初のアメリカのクラスルームはESLでした。

生徒の机は「コの字」に並べられ、先生はどこに座るのかわからない状態。自分もどこに座ったら良いか戸惑う状態。

 

それでもベルが鳴ると、カジュアルに入ってきた先生が、空いている場所に適当に座ったり、すでに生徒がいたら「ちょっと隣に動いてくれる?」などと言って、授業が始まりました。

大学に行くとそれはもう少しフォーマルになったものの、生徒の授業参加はとても高く、話す時間の比率は授業によって異なるものの(やはり文系科目は多め)、先生:生徒=1:1くらい。つまり授業中の半分は生徒が対話 (inquiry/speaking)をする機会があるのです。

 

そして今回の教職課程で教わった授業スタイルに、この「ソクラテス・セミナー (Socratic seminar)」があります。おそらく日本でやったことのある方はほとんどいないと思うので、ちょっと紹介してみましょう。

(これはやはり国語や社会科などの科目で見かけますが、トピックによっては理科や数学のクラスでやってみても面白いと思います。)

 

 

 

0. 準備

 

ソクラテス・セミナーをやる場合、まずは席を二層の円状にして並べます。真ん中に小さい円、その周りに大きな円を作るように、椅子を並べます。

真ん中の小さい円には、グループの数だけ席があり、各グループから代表者が一人ずつ座ります。つまり、30人のクラスを1グループ3名とした時、10個のグループができるので、中心には10個の席、その周りに残りの20個の席が円を作っているわけです。

 

 

1. Group Discussion

 

ディスカッションのテーマが与えられると、各グループでそのテーマに対する意見をまとめます。代表者はそれをメモにまとめるもよし。

 

 

2. Center Discussion

 

各グループの意見がまとまったら、代表者は中心サークルに戻り、そこでのディスカッションが始まります。

 

「うちのグループは、このトピックに対して賛成意見でした。その理由は・・・・」

 

とグループ1の代表者が議題を開くと、

 

「うちのグループでは、こんな意見が出ました。つまり反対意見ということです。」

 

とグループ2の代表者がそれに答えます。

 

・・・と各グループの意見が代表者達を通してクラスでシェアされるわけです。外側の円にいる各グループメンバーも、全員がこの中心サークルのディスカッションを聞きます。

 

 

 

3. Back to group discussion

 

中心サークルでのディスカッションを終えると、代表者はそれを持ち帰り、再びグループ内で意見を煮詰めます。

 

「あのグループとうちの意見は似てたよね。でも、ここが違いだと思うんだよな。」

「あの意見には賛成だけど、この部分はどうなっているのかもっと知りたい。次のディスカッションで質問してくれる?」

「これを発表した時、ちょっとこの部分が足りなかったから、次の機会で補足したほうが良いね。」

 

などなど、意見の内容が次のステップへ掘り下がるわけです。

 

外側に座っているグループメンバーたちは、下の動画では「コーチ」と呼ばれていて、「もうちょっと積極的に発言するように」とか「ここはこういう言葉遣いをしたほうがいい」と客観的なアドバイスもしていますね。

 

 

4. Back to the central discussion

 

数分後、この掘り下げられた意見を持って、代表者たちが再び中心に集まり、クラスはそのディスカッションを聞きます。

 

・・・というのが大まかな流れ。

 

これを実際にクラスでやっている動画を見つけました。

動画はカリフォルニア北部の11年生(日本の高2)の国語の授業で、ソクラテスセミナーを使って “N-word” を取り上げています。先生はアジア系の Wu先生です。

“N-word” は、アフリカンアメリカン(黒人)のことを指すとても差別的な言葉であり、現代では、”F-word” よりも悪い言葉とされています。

 

教材で「ハックルベリー・フィン」(トム・ソーヤーの友達の物語)を取り上げたこのクラスでは、たびたびこの “N-word” が作品中で登場したのを受けて、現代でのこの言葉の意味や価値などをディスカッションすることになったようです。

というのも、古典文学や少し前の英会話では、”N-word”は社会的にそれほど悪い言葉として認識されていませんでした。(ちょっと古い映画などを見ると、普通に使われているのを聞いたことがあるかもしれません)

しかし、アフリカンアメリカンへの差別を取り除こうという社会の流れによって、やはりこの言葉は使われるべきではないと人々の意識が変わってきたわけです。

 

こうやって社会が変わるにつれて、言葉への認識が変わるというのは面白いなと思うし、それを高校2年でディスカッションするというアメリカの国語の授業は、Critical Thinking を育てるだけでなく、アメリカ社会の一員となる準備を踏まえているわけです。

ちょっと説明が長くなりましたが、そんなことを踏まえて、実際のソクラテス・セミナーを見てみましょう。

 

Teaching The N-Word with Socratic Seminar

 

 

どうでしょうか?

見てみました?(CCで字幕も出せるのでぜひそうしてください)

 

お分かりのように、この授業スタイルでは、発話(スピーキング)をするのはほとんどが生徒であり、先生はテーマを提示したり、ディスカッションがヒートアップした時に軌道修正をするのが役割で、完全に「生徒主体」の授業になります。(動画では先生は後ろの方に座ってメモをとっているのみ)

 

へー!こんな高度なことやるのか!と最初は驚いたものの、テーマ次第では小学校でも取り入れられているこのソクラテス・セミナー。

これに必要なスキルは、

 

  • テーマに沿って自分の意見を述べられること
  • 自分と他人の意見の区別をつけられること
  • 返された意見を受け止めて次の意見を発展させられること

 

などであり、アメリカの学校教育では小学校から始められているものばかり。つまり、小学生でも持ち合わせているスキルを使うので、高度に見えるソクラテスセミナーに慣れている子は珍しくないわけです。

 

これは一人一人のディスカッションと異なり、グループという1クッションがあるため、生徒の参加率も上がります。クラス全員の前で発表するのはハードルが高くても、3人なら、いや4人くらいまでなら自分の意見を言えるという子も多いからです。

 

「ソクラテス」という名前がついたように、やはりこれは哲学の父ソクラテスから取られています。

彼がこのスタイルを使ったのかどうかはわかりませんが、やはりアカデミア(学問)というのは学生による

  • 自発的な思考と発話
  • 他人のアイディアへのフィードバック

というものがコアであり、それがなければ学習は起こらない、というのが根底にあります。

動画でも最後に取り上げていますが、コモンコア (CCSS) もそれらの要素を取り入れた授業が組み立てられるわけです。

 

 

うーん、面白い!

これなら学校も面白いよなぁ・・・というのが私の第一印象だったのと同時に、「自分の意見を述べる」ということが、アメリカの学校ではいかに日常的に行われているかを確信できます。

 

どうでしょうか。

 

 

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