村上春樹とアメリカ
私は村上春樹さんが昔から好きで、同じ本を何度も何度も飽きずに読む。
そもそも、私は新作だからとあれこれと手をつけるよりも、気に入ったものを繰り返して読んだり、それを落ち込んだときの心のよりどころにしたりするので、自然と守備範囲が狭い。
私が春樹ワールドに出会ったのは高校生のときだった。
最初に読んだ本は「ノルウェイの森」ではなく、「レキシントンの幽霊」という短編小説で、当時の国語現代文の教科書に載っていたのだ。
高校一年生か二年生かは覚えてないけれど、全く別の題材を取り扱っていたある日の現代文の授業中、私は授業がどうしようもなくつまらなくなって(先生、ごめんなさい)、教科書をパラパラとめくっているうちに、「レキシントンの幽霊」というタイトルを見つけた。
「何だろう?」と思って、先生が何かの授業をしている最中に、私はこのストーリーを読み始めたのだけど、そのときの感覚は今でもすごく鮮明に覚えている。
私の場合、本のストーリーに入り込むと、それがビジュアルで現れる方で、そのときも、行ったこともないボストン郊外のレキシントンという町並みや、そこにある豪邸の門構え、書斎の本の匂いとか、レコードのジャズとか、犬の毛並みとか、そういうものまで感じられるほどだった。
そして当たり前のように、幽霊のシーンでは、自分の心臓の音とか、手の汗とか、幽霊たちの声とか、そういうものが本当に聞こえてくるかのような感覚になって、ハッと気づいたら私は札幌の高校で現代文の授業を受けていると気づいたくらいだったのだ。
先生にはおそらくばれなかった(かもしれない)けれど、私は一人で「何かマズイもの」を見てしまった感じがした。
そこからノルウェイの森を読み、春樹さんのエッセイも読むようになり、ますますはまるようになった。
私はもともと読書が好きで、母が「エリナのエは絵本の絵」といつも口癖のように言っていた。
それくらい絵本や本好きな母に育てられた私は、いつも本に囲まれていた。
私が小学校入学する年には、任天堂から初代ファミコンが発売され、まさにファミリーコンピューター=「コンピューターが一家に一台」の時代が始まったときだった。家庭でのデジタル化が進み、活字よりもファミコン、という時代である。
それでも私は本が好きで、マンガもたくさん読んだけれど、同年代の子供に比べたら割と本は読んだほうだと思う。
でも夏休みの宿題の「読書感想文」は苦手で、あまのじゃくだった私は「課題」として与えられた本を読むのが大嫌いだった。
「読みなさい」と言われたのが原因で、嫌いになってしまった本もあり、それはもう残念でたまらない。
自分のへそ曲がりが嫌になるけれども、私は本屋さんに行って、誰にもジャマされずに本棚の前に立って、「う〜ん」と選ぶのが好きなのだ。そこに読書の楽しみのうちの25%くらいはあると私は思っている。
そんなわけで、春樹ワールドとの出会いは現代文の教科書だったわけだけれど、私は多くの若者にある「人生はノルウェイの森で学んだ」というより、彼の小説とエッセイのギャップに楽しみを見いだした。
哲学的で、超現実的(Surrealism)というらしい彼の小説と、滑稽だけど飲み屋で知らないおじさんの話を聞いてるかのような彼のエッセイのギャップは、同じ人間からやってきたとは思えないくらい面白かった。
私はたぶん個人的に村上春樹さんと気の合う顔見知り、というか親戚だったら、なぜか気の合う叔父と姪くらいになれたと思う。
それくらい、人生観というか自己分析みたいなものがすごく似ていて、たまに自分のことを誰よりも見透かされているようで笑ってしまう。
私がアメリカ留学を決めて、渡米準備に入っていた頃、手に取った彼のエッセイが今でもとても役に立っている。
当時は「アメリカはそういう国なのか」と何度も読んでは、イメージトレーニングのように頭に叩き込んだ。そしてその作業がとても楽しかったのを覚えている。
そのエッセイは「やがて哀しき外国語」という本で、春樹さんのアメリカ生活体験を書いたものだった。
彼がいたのはプリンストン大学のあるニュージャージー州で、時代も違ったから、細かく言えば違いもあるのかもしれないけれど、アメリカ歴史のあるポイントで、日本人がどう見られているか、という意味でとても参考になった。
アメリカ留学を考えている人、特に東海岸へ行く人は、ぜひ読んでいただきたい。
私はアメリカでの最初の一年は、この一冊をまさにバイブルのように携帯し、何度も読んでは、渡米直前の奮起する感覚を常に思い出していた。
それこそ、ホームシックになりそうなとき(っていうのは日本語が恋しいときでもある)に、このエッセイを読んで、何度、「また頑張ろう!」と思えたことか。
そういう意味で、村上春樹は私の心の応援団長(笑)であり、こうやってブログで記事を書くことに目覚めた私に確実に影響を与えている。
この記事も、春樹さんのエッセイを意識して書いてみたのだけれど、気づいてくれた人は・・・いないかな。
・・・とまぁ、どうでも良い独り言を土曜日にしてみる。