“Critical Thinking”とは?
こんにちは、Erinaです。
今日は、アメリカで何かと使われる、”Critical Thinking”というものについて書いてみたいと思います。
日本でも「クリティカル・シンキング」なんてビジネス書が出ていたり、最近では、「批判的思考」という言葉が使われているようです。
このCritical Thinking、一体なんなんでしょうか?
一口に、「こうだ!」と説明するのはなかなか難しいもの、というのは確かなことです。
そこで今日は、私が身をもって覚えた体験などを書いてみようと思います。
(実際にどんな頭の使い方かをこちらの記事で書いてみました。お試しください。)
日本語の意味を調べる前に、まずはこんな質問に答えてみてください。
あなたは、自転車に乗れますか?
はい・いいえ
あなたは、クロールで泳げますか?
はい・いいえ
どちらか一方でも、「はい」と答えられた方に次の質問です。
あなたは、自転車に乗るとき、またはクロールで泳ぐとき、自分の動作を意識しながら自転車に乗ったり、クロールをしますか?
たぶん、答えは「いいえ」でしょう。
どうしてか?
それは、「体が覚えているから」ですよね。
覚えてますか?自転車に乗る練習をしていた頃。またはクロールを練習していた頃。
最初は、頭で考えて、バランスを取りながら右足、左足、右足・・・ってペダルをこぎましたよね。
ある瞬間、はっと気づいたら、「あ!乗ってる!」ってことがありませんでした?そしてその後は、頭で考えなくても、体が勝手に動いて自転車に乗れるようになった、という人がほとんどのはずです。
クロールも同じ。
最初はバタ足と腕を別々に練習して、徐々にコーディネートされていく。はじめのうちは、ぎこちないながらも、そのうちに、気づいたら息継ぎしながら進んでいた、というはずです。
これは、「体に覚えさせる訓練」をしたからです。
Critical Thinkingも同じ。訓練(トレーニング)が必要ですが、それを覚えさせるのは体ではなく「アタマ」です。
つまり、Critical Thinkingは、生まれながらに備わっているものではありません。
性格が多少、吸収の速さを左右することがあるかもしれませんが、たいていの場合は、トレーニングをして得るものです。なので、自転車やクロールと同じで、途中でやめたら身につかないということ。
ということで、準備は良いですか?
Critial Thinkingとはどういうものなのか、本題に進みましょう。
Critical Thinkingをウィキで調べてみると、こんな定義になっています。
“Critical thinking is the study of clear and unclear thinking. It is primarily used in the field of education, and not in psychology.”
その下に、The National Council for Excellence in Critical Thinking という団体の定義があります。
“(C)ritical thinking as the intellectually disciplined process of actively and skilfully conceptualizing, applying, analyzing, synthesizing, and/or evaluating information gathered from, or generated by, observation, experience, reflection, reasoning, or communication, as a guide to belief and action.”
う~ん、なかなかピンと来ませんね。
ちょっと下のほうに出ている、”Various definitions”のトップ5つを見てみましょう。
Critical thinking has been defined as:
- “the process of actively and skillfully conceptualizing, applying, analyzing, synthesizing, and evaluating information to reach an answer or conclusion”
- “disciplined thinking that is clear, rational, open-minded, and informed by evidence”
- “reasonable reflective thinking focused on deciding what to believe or do”
- “purposeful, self-regulatory judgment which results in interpretation, analysis, evaluation, and inference, as well as explanation of the evidential, conceptual, methodological, criteriological, or contextual considerations upon which that judgement is based”
- “includes a commitment to using reason in the formulation of our beliefs”
どうも、これは何らかの「プロセス」みたいですね。キーワードがいくつかあるようです。
何のプロセスでしょうか?
答え:「思考」のプロセス
何を使うんでしょうか?
答え:「原因」とか「理由」みたいですね
このプロセスの目的はなんでしょうか?
答え:物事を評価すること
どうですか?そんな感じで読み取れました?
つまり、Critical Thinkingとは、簡単に言うなら、与えられた情報を、原因や理由を積極的に使って分析し、評価すること。
たとえば。
「運動は体に良いことだ。」
と、誰かが言ったとします。
あなたは、この言葉を信じますか?
「はい」と答えた人、どうしてですか?
- 「え・・・だって、みんなやってるから。」
- 「そう昔から教わってきたから。」
- 「ジムのトレーナーがそう言うから。」
- 「テレビでも言ってるし。みのさん(またはマチャアキ)が。」
なんて答えた方、いますよね。
これ、Critical Thinkingをしていない証拠なんです。「他人の言動」をそのままコピーし、自分の結論にしてしまう、というのは、Critical Thinkingとは真逆です。
じゃあ、Critial Thinkingをしている人は、どう答えるでしょうか。
- 「有酸素運動なら心肺機能を活発にして鍛えられる。」
- 「体を動かすことで、縮んでいた筋肉が緩む。」
→だから体に良い。
という結論を導きます。
- 「有酸素運動なら心肺機能を鍛えられる。」
- 「体を動かすことで、縮んでいた筋肉が緩む。」
というのは、科学的に実証されていることですから、「理由」として有効な情報なわけですね。
でも実は、本当のCritical Thinkingは、ここで終わりじゃありません。
「あなたは、この言葉を信じますか?」
の質問で、「はい」とも「いいえ」とも答えられなかった方、いませんか?
その代わり、「場合による」と答えた人。英語で言うと、”It depends.”です。
実はそれが正解なのかもしれません。
なぜなら、「運動のしすぎは体に良くない。」というのを、経験を持って証明できる人もいるはずです。たとえば、
- 運動のしすぎで故障してしまった人。
- リタイヤしたマラソン選手が、適切なトレーニングをしなければ、心臓に問題を持つ傾向があることを知っている人。
- というか、運動なんてただ単に細胞の寿命を縮めてるに過ぎない!という人。(笑)
などなど、科学的に実証できる事実を使って、「運動は体に良いとは限らない。」という結論も出せるわけです。
Critial Thinkingをする場合、一方の意見ではなく、両方の意見(賛否)を分析する必要があります。ここが難しいところですね。これは”Controvertial Topic”なんかのクラスで勉強します。
でも、実際に学校や仕事で「それは場合によります。」が正解になるでしょうか?
なりませんね。
「あの計画、どうなったの?」と上司に聞かれて、「場合によります。」なんて答えたら、怒られそうです。笑
テストの答案に「場合による」なんて書いたらダメです。
じゃあどうするか。
「両方の意見を分析した結果、イエス(またはノー)です。」
というのが理想です。そしてその分析内容を「サポート」としてプレゼンするわけです。
長くなってしまいましたが、次はもっとシンプルな例です。
ちょっと簡単な算数をやってみましょう。
3/5+7/12=
どうですか?
答えは出せましたか?
日本なら小学2年生くらいのレベルの算数です。
実はしばらく前に、ある知人にこの問題をやってもらいました。分数の足し算なんて何10年ぶりかわかりませんが、できるはずです。分母が違うから、まずは通分して、その数字を分子にかけて・・・で、その分子を足す。ってできたんです。
・・・・が、なぜかその答えを紙に書けない。
私:「どうしたの?」
知人:「う~ん、違う気がする。」
私:「どういうこと?」
知人:「なんか、変な感じがする。」
私:「どうして?」
知人:「こんな大きな数字になるのかしら・・・。」
私のほうが「???」となってしまいました。
よくよく聞いてみると、分子が分母より大きくなってしまったことが、知人にとって納得行かないようだったのです。
私はこれを目の前で見て、「あ、Critical Thinkingだ」と思いました。
私:「ねぇ、答えは出てるんだよね。きっと正解だと思うよ。でも、なぜかそれを紙に書けなかった。どうしてかわかる?」
知人:「わからないわ。」
私:「あなたの、『なんだか変かも』っていう主観が、真実をまっすぐに見る能力を曲げさせたんだよ。」
そういうと、知人ははっとして「これってものすごい怖いことね!」と自分に驚いていました。
わかります?
自分の経験とか先入観、「これって変かも」という根拠のない主観が、物事をまっすぐに見ることを妨げてしまう。これは、年齢が上がれば上がるほど、顕著になります。(残念なことに・・・)
若い頃のほうが、色々なことがアタマにす~っと入っていくのは、先入観を作ってしまう「経験」がそれほどないからなんですね。
Critical Thinkingは、個人が蓄積してきた主観的な経験や先入観を排除し、実証されたデータや理論を使って、判断を下すプロセス。こんな簡単な算数でも、いかに私たちが自分に目隠しをしてきたかを示すきっかけになるのです。
どうですか?みなさんには似たような経験、ありません?
最後にもう一つ、ビックリする事実を書いておきましょう。
このCritical Thinking、wikipediaの一番最初の定義にも書かれているように、「心理分野」のものではありません。なので、人の心を操るためのものと か、上司を説得するためのノウハウ、と思っている人がいたら、それは間違いです。(まぁ、結果としてそうなる可能性はありますが、上司はもっと賢いと期待したい。Hopefully…)
これが最も使われている場所は、「教育分野」です。
この記事でも書いたように、アメリカの教育で、おそらく一番重要と言っても過言ではないクライテリア、それはCritical Thinkingです。
アメリカの大学へ行けば、文系・理系に関わらず、誰もがパスしなければいけないクラスがあります。それは、英語の”Critical Thinking”のクラス。実は、日本人学生が、最もてこずるのがこのクラスかもしれません。
なぜなら、現代の、というか私が子供だったン十年前は、日本の初等・中等教育ではCritical Thinkingは教えていないからです。(もし最近の教育関連の方がいらっしゃったら、教えてくださいね)
昨年、うちの息子がキンダーガーテンに入学し、私は初日のオリエンテーションに参加しました。
そこで驚いたのは、担任の先生が「この学年のカリキュラムは、Critial Thinkingをとり入れたものです。」と言ったことでした。
アメリカでは、このCritical Thinkingのトレーニングが、なんと5歳から始まっているのです。
「う~ん、日本人は頑張らないと、アメリカで教育を受けた人たちに敵わないはずだわ・・・。」と正直に言ってショックでした。
でも、できます。
だって、自転車やクロールと同じですから。
そしてこのCritical Thinkingをトレーニングするのに一番近道は、アメリカの学校で勉強すること。(大人ならコミカレなどで)
それはどうしてでしょうか?
Critical Thinking、してみてください。
アメリカの学校教育で取り入れられているCritical Thinkingのトレーニングについてはこちらの記事で読めます。
この Critical thinking を実際に試してみたい方は、こちらの記事で練習問題を紹介しています。
大変参考になりました。ありがとうございます。現在40歳ながらアメリカの軍事関係のアカデミーに通っているのですが、「Critical Thinking」という言葉がどうもしっくりこないときに、このサイトにたどり着きました。すでに頭が先入観で詰まっているので、いい機会だと思い「Critical Thinking」を学んで実践してみたいと思います。
山崎さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
お役に立てて嬉しいです。
ちょうどまた、このトピックについて考えを膨らませていたところで、新しい記事を書きたいなと思っていました。
そうなんですよね、日本語でちょうどしっくりくる言葉がないのは、Critical Thinkingという文化が日本にないんですよね。
お勉強、頑張って下さい!
エリナさん、こんにちは。アメ10の記事からこのサイトにたどり着きました。
Critical thinking はビジネスや研修などで良く登場しますが、単に反対側からの見方や検証を行い結論を導き出すイメージと捉えていました。固定概念と深くリンクしているのは大変興味深いですね。
一つの仕事や業務に携わる期間が長ければ長いほど、変に凝り固まってしまい、「顧客はこういうものだ!!」と思い込みがちになってしまいます。
そこで自分で「はっ!いかんいかん」と振り返り、あえて知見の少ない人に「どう思う?」と聞いてみることにしています。すると、稚拙に思える意見も出て来るのですが、「なぜそう思ったの?」と聞いてみると、自分とは全く違う視点で見ていたことが分かり、そんな見方があるんだ…と、気づかされます。
若い頃は、それを許容したくなくて(つまり自分の考えを否定されるのがイヤだった)耳と眼を塞いでいた時もありましたが、ある程度年を経た今は、逆に素直に聞けるようになりました。笑
しかし、区立の小学校に通う5年生と1年生の息子達は、まさに毎週漢字テスト地獄…。
母親として、自分で考えて判断する力を付けさせたいと、切に願ってます。
エイコさん、初めまして。
こちらにもようこそ。笑
そうなんですよね。日本ではどうもビジネススキルの一環、リーダーシップの続き、のような感覚のようですが、実際はもっと広くて、こちらではキンダー(5歳)からその教育が始まります。
この多様化したアメリカで、物事を広い視点で見る、というトレーニングの根底になっているのかもしれません。
確かに、経験値が上がると、人は誰でもその知識をもとにジャッジしたくなります。だってそれが正しかったんだもん。
だけど、エイコさんがおっしゃるように、「はっ!いかんいかん!」と自分で気づいてゼロに戻る、という作業はいつでもどこでも必要ですよね。初心に帰るというか、謙虚な気持ちでいるというか。
エイコさんは現在、日本で子育てされているんですね。
私も日本の教育現場どころか、日本自体を離れてだいぶ経つので、きっと色々なことが変わっているのだろうとは思いますが、アメリカの学校や教育というものを見て、感じることをこうやって紹介していきたいと思います。
また遊びに来てください。
大変参考になりました。現在、コミュニティカレッジに通っています。
授業でcritical thinkingとは、という課題でエッセイを書かないといけません。。。
日本の学校で学ぶことももちろんありませんでした。
critical thinkingを英語で説明されてもいまいち理解ができなかったので、色々なサイトを見てリサーチしていたらErikaさんのブログにたどり着きました。
とてもわかりやすく、さらに理解が深まりました。ありがとうございます!
Risaさん、こんにちは。
お役に立てて嬉しいです。
なかなか日本では聞いたことはあっても馴染みのないコンセプトですが、アメリカ、特に教育分野においては避けて通れないものですね。
特にアメリカで仕事をしたいと思ったら、なおさらです。
勉強、頑張ってくださいね!