ブックレビュー:”Ghost”
こんにちは、Erinaです。
久しぶりに読んだ本を紹介したいと思います。
表紙に書かれているキャッチフレーズが、この作品の究極のテーマであり、読者に問いかけるもの。
“RUNNING FOR HIS LIFE, OR FROM IT?”
人生のために走っているのか、それとも人生から走っているのか?
つまり、自分の現実から逃げているのか?
作品のデータ:
Lexile: 730L
Grade Level: 5-6th(年齢10〜12歳)
作品紹介にはこうあります。
“Running. That’s all that Ghost (real name Castle Cranshaw) has ever known. But never for a track team. Nope, his game has always been ball. But when Ghost impulsively challenges an elite sprinter to a race — and wins — the Olympic medalist track coach sees he has something: crazy natural talent. Thing is, Ghost has something else: a lot of anger, and a past that he tries to outrun. Can Ghost harness his raw talent for speed, and meld with the team, or will his past finally catch up to him?”
「ゴースト」(本名は Castle)は黒人の中学生男子。
3年前に起こった出来事のトラウマを抱えながら、母親と二人で暮らしています。
街の中でも裕福とは言えないエリアに住んでいることや、サイズの合わない服やノンブランドの靴を履いていることで、いじめっ子に喧嘩を売られては学校でトラブル続きの日々。
親にも、学校にも、自分にも常にイライラしている彼は、”Track”、つまり「陸上」との出会いで人生が変わっていきます。
ゴーストはとても足が速くて、陸上チームのコーチに抜擢されて色々と面倒を見てもらいながら、チームメイトと共に成長していく、という、一見、青春ものっぽいかと思いきや、中学生男子の微妙な心の揺れ動きや現実との葛藤がとても瑞々しく描写されていて、手が止まらなくなりました。
自分にはどうしようもできないことや、自分のミステイクと向き合うこと、そしてそれを乗り越えた先にあるもの。それがティーン目線で描かれていて、変に背伸びをしていないところがすごく良かった。
コーチの役割もすごく大きかったし、この年齢の子供達にとっての大人の存在というものを考えさせられる作品でした。
あっという間に読んでしまったものの、後々まで考えさせられるという意味では、ずっと後味が残っています。続編も早速購入したし、この世界観にどっぷりとはまりそうです。
今年のアメリカは、歴史的な出来事がたくさん起こりました。
BLM (Black Lives Matter) の動きが全米で起こり、この国にはびこる人種差別が再度、浮き彫りになりました。
大統領選挙の結果から見ても、2020年、この国が何かしらのターニングポイントにたどり着いたことは明白です。
Jason Reynolds は若い黒人男性の作家で、やはり黒人社会で生きる若者の姿を克明に描写する作品が多いです。
マイノリティとしてこの国で生きることの意味や、それを次世代にフレッシュな言葉で伝えていくこと、彼の作品にはそういう意識があらゆるところに滲み出ていて、まさに止められない!という感じでした。
マイノリティ人種の中高生と働くことが多い私ですが、やはりこういう作品を読むことで、表面下にある生徒達の複雑な心の動きや、どんな文化の中で生まれ育ってきたのだろう?という想像力を働かせるようになったし、それは決して、腫れ物を触るのではなく、そういう相互理解をした上で、対等な人間同士の心のやりとりをしたいな、と思うのです。
シリーズ2作目は、ゴーストのチームメイトの女の子、”Patina” が主役。
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