生徒との日々 (3) ジャッキー

こんにちは、Erinaです。

 

今日は久しぶりに、私が出会った生徒の話をします。

 

ジャッキー(仮名)は、3年前、私が初めて受け持った9年生の一人。

「私はOCD (Obsessive Compulsive Disorder) なの」と口癖のように言っては、ノートの取り方にこだわりがあるようでした。

ジャッキーにはボーイフレンドのジョーイがいて、二人はいつも一緒でした。ジョーイは成績も優秀で進学クラスに入れたものの、どうしてもジャッキーと一緒が良いと同じクラスになっていたそうです。

 

学年度終わりも間近、フィールドトリップで UCSDキャンパスに行くことになり、私も同伴しました。

ただその日はあいにくの悪天候。多数の生徒が早々にキャンパスツアーを諦め、Student center で時間を潰していた時、この二人とゆっくりと話すことになりました。

 

何かのきっかけで、きょうだいの話題になった時のこと。

 

私が「ジャッキーは、きょうだいはいるの?」と聞くと、彼女はこう答えました。

 

「お兄ちゃんが、いた」

 

「いた?」

 

「うん、殺されたの」

 

一瞬の沈黙が広がります。

 

私:「何があったの?聞いても良い?」

 

ジャッキー:「うん。当時付き合っていた彼女と、その男友達に撃たれた」

 

私:「お兄さんの名前は?」

 

ジャッキー:「アンソニー。」

 

私:「アンソニーはいくつだったの?」

 

ジャッキー:「17歳。」

 

私:「何があったの?」

 

ジャッキー:「彼女が二股をかけてて。アンソニーが別れたいって切り出したら、その二股相手と彼女がやってきて、殺された」

 

私:「家族みんな、ショックだったでしょうね…」

 

ジャッキー:”I’m gonna kill that bitc*.”

 

そう言った時のジャッキーの声と表情が今でも忘れられないのは、それは彼女の心からの言葉ではなく、何かに「言わされている」と感じたから。

 

私はそれを聞いて、こう言いました。

 

“No you are not. You have more important things to do.”

(あなたはそんなことはしないよ。他にもっとやるべきことがある)

 

ジャッキーは驚いた顔をして、私を見つめました。

 

私:「あなたは法律を勉強して、弁護士になる。」

 

ジャッキー:「え、何?」

 

私:「法律を勉強して、アンソニーみたいな青年や家族たちを救うんだよ。」

 

私の言葉が、何かしらの形でジャッキーに届いたのが目に見えるような沈黙がありました。

そして、ジャッキーは否定も肯定もせず、“Maybe.” とだけ言いました。

私もそれ以上は何も言わず、サンディエゴでは珍しく雨が大きなガラスの壁にあたるのを見ていました。

 

しばらくして、二人はお腹が空いたとスナックを買いに立ち上がりました。

そこに残された私は、まだジャッキーの言葉をずっとグルグルと考えていました。

 

“I’m gonna kill that bitc*.”

 

あれは、何かに言わされていたのだ。

7年前に大事なお兄さんを殺された少女は、報復が全てを解決すると信じていたし、むしろそう思うしかできなかった。

 

それは「環境」だ。

 

未来への選択肢が、「報復」か「弁護士」かを決めるのは、環境だ。

 

彼女の家庭環境がどんなものか、私には想像もつかない。

ティーンの息子をそんな形で失った両親の痛みも、私には想像がつかない。

ただ、あれはジャッキーの本心ではない。

 

「弁護士」という言葉は、自分でも驚くほどパッと出てきたものだった。

今になって考えてみても、ジャッキーが弁護士というのはとてもぴったりで、あの言葉に嘘はなかった。

 

それから数ヶ月後、サマースクールでまたジャッキーを受け持った。

 

ジャッキーはジョーイとは別れていた。

あんなにずっと一緒だった二人だけれど、やはりそこには何かしらの違和感があって、お互いの心の隙間を埋めるためだと大人から見れば一目瞭然だった。

 

「ジョーイとは別れました。私は勉強します」

 

私は、「そっか」とだけ言った。

 

 

このシリーズの別記事はこちら:

(1) アルベルト

(2) At risk students

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