転職か、残留か (6)

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アメリカの銀行で働く、日本人ママの物語。

前回までのお話はこちら

 

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妙な不安をちょっと脇において置こうと決めた翌日、リンさんからメールが来る。

 

「ハイ、エリナ。君の新年はどうでしたか?

残念ながら、その2社について、詳しくはわかりません。

ただ、A社はサイズとしては大きいから、合併の際には、吸収されるよりは吸収する側になるだろうね。それは良い点かもしれない。

シニアレベルになるにつれて、ワーク・ライフバランスがとれるか、どういう働き方をするべきかをきちんと知ったほうが良いね。

B社は新しいキャリアを始めるなら、君の行きたいところにたどり着くまでに、どれくらいかかるのかを知ったほうが良いね。

また何か質問があったら、いつでも連絡ください。グッドラック。」

 

なるほど。

 

やはりここでも「ワーク・ライフバランス」の言葉が出る。

これが気になるのは、子育て真っ最中の女性だけじゃない。

役職に就く、子育てを終えた男性だって気にすべきことなんだ。

ワーク・ライフバランスを掲げることは、悪いことじゃないと思えた。

 

ここ数日、オファーももらっていない2社と、現在の会社の間で悩んでいる自分がいた。

 

目の前にはっきりと分かれ道が見える。

 

「私はどこに行くんだろう?」

 

どこに行っても自分なような、行ったら自分じゃなくなるような、そんな気がした。

 

旦那:「もし、今の会社で引き止められたらどうする?」

私:「え?」

旦那:「バーバラ(私の現上司)が、君の待遇や仕事内容を見直す、って言ったら、どうする?」

私:「う~ん・・・。それでも残ることは無いと思う。もう今のところに心残りはないんだから。」

旦那:「ん、そっか。」

 

「残る」という3つ目の選択肢が自分の中でとても小さくなっていたことに気づいた。

 

 

私は、1年前にバーバラが言ったある言葉を思い出していた。今回の転職プロセスでも、それを何度も自分に言い聞かせてきたのだ。

 

「ずっと同じ会社にいるというのは、キャリアアップには望ましくない。」

 

どんな話の流れだったか、私がこのおしゃべりの相手だったかも覚えていない。

誰かとの会話を、たまたまそこにいた私が聞いていただけだったかもしれない。

ただ、彼女がそう思っているという事実が、今回のプロセスの中で、私にとって心の支えだった。

 

「きっとバーバラは理解してくれる」

 

そう思えたからだ。

 

最近の夫婦の会話トピックはこればかり。

 

旦那:「次の質問は『いつから働けるか?』と『希望するサラリーは?』だよ。決めてるの?」

私:「いつから、って言うのはだいたい決めてる。3月下旬。サラリーは・・・これくらいかな。」

旦那:「それじゃ低いよ。今のところでこれくらいなら、もっと上を希望しないと意味が無いでしょ。」

私:「そうかなぁ。」

旦那:「そうだよ。君の希望した額が高すぎたら、向こうがちょっと下げた額で戻ってくるから。」

私:「そっか。」

 

やはり「給料のネゴシエーション」という文化はなかなか慣れない。でも言ってみなきゃわからないという気持ちもある。

 

 

そんな折、A社のリクルーターから連絡があり、不動産専門のアナリストは他に見つかってしまったとのことだった。

 

「オーケー、わかりました。これまでどうもありがとうございます。」

 

あっさりとお礼を言う。

自分でも驚くほど、残念に思えない。

B社との約束の2週間も、だいぶ前に過ぎた。

 

「適当だなぁ・・・。」

 

そんなところが引っかかる。

 

この間にも社内研修があり、何か取っ掛かりはないか?という思いで参加する。

いつもの業務とは別の角度で「自分の仕事」と向き合うのはやはり大切で、自分のやるべきことが見えてくる。

 

「自分に足りないのはコレだな。」

 

冷静になって考えてみると、それが今までの自分のリミットになっていたことに気づく。

自分の成長を阻んでいたのは、他の誰でもない、自分だったのだ。

 

「もう逃げられないな。ちゃんと勉強しよう。」

 

そう思って、コミカレや4年制大学のエクステンションで不動産の夜間クラスをリサーチ。

自分で教科書を読んでも良いけど、「授業を取りました」という証拠もやはり欲しい。

コミカレはもうスプリングセメスター(春学期)が始まってしばらく経ってしまっているし、「クラッシュ」と呼ばれる追加登録の期日も過ぎた。

 

「ちょっと遅かったか・・・。」

 

UCSDのエクステンションで10週のコースがある。550ドル。同じ内容の授業なのに、UCSDエクステンションで550ドルのクラスが、コミカレなら150ドルで受けられる。

いくら会社が授業料を払ってくれるとは言え、この差は大きい。

 

そんなことをやっていると、2月中旬のパフォーマンスレビューの日がやってきた。昨年の成果や今年の目標を、直属のボスと話し合う機会だ。

 

「エリナ、ちょっと今、時間ある?」

 

バーバラからの内線電話はいつも突然。

 

「えぇ。今、行きます。」

 

廊下の向こう側にある、バーバラのオフィスに出向く。

 

「来たわね。去年のパフォーマンスレビューなんだけど。」

 

「あぁ、はい。」

 

バーバラのオフィスのドアを閉めて、テーブルにつく。

 

「今年はレビューのフォーマットが変わって、だいぶシンプルになったの。目を通してくれる?質問があったら教えてね。」

 

バーバラは私が1ページ半のレビューを読む間、静かに待つ。

結果は初めての”Exceeded Expectation”だった。

パフォーマンスレビューは、たいてい、以下のようなスタンダードがある。

Exceeded Expectation (EE): 目標を超えた

Achieved Expectation (AE): 目標を達成した

Partially Achieved Expection: 部分的に目標を達成した

Did Not Achieve Expectation: 目標を達成しなかった

 

今までずっとAEばかりだったけれど、今年はEEだった。EEになるにはどういう仕事の仕方をすれば良いのか、少しわかった気がした。

 

「ありがとうございます。」

「去年はよく頑張ったわね。リードしてくれたプロジェクト、本当にうまく行ったと思うわ。」

「そうですか。良かったです。」

「そんなわけで、ボーナスは最高枠。昇給も最高枠で承認もらったから。」

 

そう言うと、バーバラは小さい紙切れに書かれた数字を渡してくれる。転職で希望する額をあっさり超えていた。

 

「ありがとうございます!」

「こちらこそ、ありがとう。レビューに質問はある?」

「レビューとは直接関係ないんですけど、今年は不動産をきちんと勉強しようと思います。」

「えぇ、とても良い考えだと思うわ。」

「今の自分の弱みって、不動産知識だと思うんです。分析はできる、Financial Statementも読める。でも、不動産の部分がやっぱり足りないなと思いました。」

「そう。もう知ってることも多いと思うわよ。でも、クラスを取るのはとても良いと思う。」

「残念ながら、コミカレのセメスターはすでに始まっちゃってて。UCSDのエクステンションにサインアップしようと思います。」

「わかった。情報を後で送ってちょうだい。Tuition Reimbursement(授業料返還)プログラムの承認をしましょう。」

「ありがとうございます。で、このレビューフォームはサインして渡せば良いですか?」

「ええ、ゆっくり自分のデスクで読んでからで良いわよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

そう言って、自分のオフィスに戻る。

 

まずは旦那に電話しなきゃ。

地下駐車場に停めた車に乗り込み、電話をかける。

 

「昇給したよ!ボーナスも最高枠だった。」

「おめでとう!ほらね、バーバラはちゃんと見ててくれてたじゃない。」

「うん。」

「これで転職は考え直すの?」

「わからない。でもここで頑張ってみようかなって思えたかも。」

「そっか。」

「今年は不動産の勉強もしようと思うの。後はゆっくり夜に話すよ。」

「オーケー。」

 

今年の目標も見つかった。

去年の成果も目に見えた。

 

どうする?

 

動くのか?それとももうちょっとここで頑張るのか?

 

 

次回:転職か、残留か (7)

 

 

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About Erina

こんにちは、Erinaです。 日本で一浪した後、2002年に留学生として渡米しました。ESLとコミュニティカレッジを経て、4年制大学に編入。高校時代は大嫌いだった数学が大学で大好きになり、応用数学専攻で卒業。金融アナリストインターン、IT企業でデータアナリスト、銀行で不動産アナリストを経て、現在、キャリアチェンジの真っ最中。アメリカの高校で数学教師になるために、2016年夏に脱サラ。久しぶりの勉強と主婦業に専念しています。二人の小学生のママです。趣味は読書・ヨガ・テニス・ゴルフ・DIY・庭仕事で、最近の一番の楽しみは子育てです。 アメリカに住む日本人女性を応援したくてこのブログを始めました。

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