数学と女の子:ロールモデルの話
こんにちは、Erinaです。
数学と女の子について書いています。
前回の記事では、ホルモンが数学と思春期の女の子の関係についてどういう影響を起こしているかを書いてみました。
今回のテーマは「ロールモデル」です。
ロールモデルは、英語で”Role Model”で、身近にいる「お手本になる人」のことを指します。
たとえば、「あの人みたいになりたい」とか「こんな女性になりたい」という存在が、近くにいるかどうかで、自分が置かれた状況下で、どんな成長ができるかのスピードが変わってきます。
私も今の場所にたどり着くまでに、様々なロールモデルに出会い、彼女たちをじっくり観察し、真似し、意見をもらい、努力してきました。
このロールモデルという存在は、女性がSTEMと呼ばれる理系分野に入っていくにはおそらくかなり大きな要因になるというのが、最近よく話題に上がります。
私は中学・高校と数学が大の苦手でした。
中学3年間、数学の教師はずっと同じ男性教師でした。
高校3年間も、ずっと同じ男性教師でした。
当時、私と数学の間には「苦手科目」以上の距離があったし、まさか自分が今になって数学と向き合いたいと思うようになるとは思ってもいませんでした。
アメリカにやってきて、コミカレで一番最初にとった授業に、Calculus I(微積分学I)がありました。
このクラスの教授は当時30代の女性のG教授。
身長150センチくらいの小柄な女性で、カーリーヘアの白人女性です。
大学で初めての授業、それも外国語、それも数学、という3大ハードルが揃っていた私にとって、不安要素はゴロゴロと転がっていました。
そんな中で、この微積分のクラスでAをとれたのは、やはりこのG教授の影響が大きかったと思います。
彼女はとても親身に学生と接しました。
私が留学生とわかれば、英語に関するハードルを下げてくれたり(ゆっくりクリアに話してくれるとか)しました。何度も質問に行っても、嫌な顔一つせずに迎え入れてくれました。
彼女は「留学生であること(=アメリカ生活に慣れないこと)と、数学力は関係ない」と理解していた教授であり、それをきちんと行動で表してくれる教授だったのです。
こうやってG教授のもとで2クラスとった私は、「女性数学者」というコンセプトが自然と体に染み込むようになり、「数学を専攻しようかな?」という気持ちが生まれていたことに気づきました。
数学との距離が、いつの間にかずっと縮んでいたのです。
つまり、自分にとっての”Comfort zone”(安全領域)に数学が知らないうちに入り込んでいて、数学は私にとって「未知なる恐怖の対象」ではなくなっていたんですね。
I overcame the fear of Math without realizing it.
「知らぬうちに、数学への恐怖を克服していた」
という感じでしょうか。
それは、テスト結果で生まれた自信であり、宿題を日々こなすことからの自信であり、一歩一歩進むこと、一つ一つ積み重ねることの重要性に、気づいた瞬間でした。
数学に対して、恐れることは何一つなかったのだと。
そうやって冷静になって数学というものを見渡してみると、意外とそこにいる女性の多さに気づきました。
4年制大学に編入した後はなおさらで、女子クラスメートが増えてとても嬉しかったのを覚えています。その中の一人は今でも親友で、似たような価値観をシェアできる人です。
しかし親になった今、感じることは、大学に入って数学を専攻するまでに、女性数学者のロールモデルは少ないという現実。
つまり、そこに行き着くまでに、数学の魅力を感じる機会がとても少ないということ。
中高の数学教師たちも男性が過半数で、女性教師がほとんどの小学校では算数に強い教師が少ない。
女の子が中学・高校に上がり、数学が好きだったとしても、多くの女の子にとって、私が感じていたような距離感は今でも存在している、ということでした。
Huffington Postで興味深い記事を見つけました。
How Elementary School Teachers’ Biases Can Discourage Girls From Math and Science
女の子が算数・数学を苦手に感じるようになるポイントは、キンダーガーテンからキャリア決定を通して何度もあり、特に小学校での印象がその決断を大きく左右するということ。特に、この年代に先生がどういう対応をするかがキーになっているということです。
私が家庭教師をした高校シニアの女の子は、数学自体は好きだけれど、他にも専攻したいものがあるとのことでした。
そんな彼女のお母さんから、「娘には数学専攻してほしいので、進路について色々と話してあげて欲しい。数学を勧めて欲しい。」と言われました。
私は女の子に、個人的には「まぁ、やりたいことがあるなら、大学では色々とやってみたほうが良い。もし本当に好きだと思ったら、自然と数学を選ぶから」と言いましたが、私の知っている範囲で数学の話をしました。
たとえば、統計確率を使った株のリスクマネジメントの話。保険会社が使うモデルの話。微積分を応用した様々な工学分野の話。
そういうことを紹介すると、彼女の目はパッと開いて、「そんな話、聞いたこともなかった~」という表情になりました。
大学に入る前に、数学というものを、単なる学校の科目ではなくて、異なる視点で見てみるという機会はなかなか少なく、それこそ趣味でロボットを作るとか、サイエンス系のイベントやクラブに入っていない限り、知ることはできないのが現実。
人間、誰でもそうですが、そういう「未知なるもの」は距離感を生み、苦手な場合は嫌悪感を育ててしまうこともあるわけです。
私はそれがもったいないと感じるし、だからこそロールモデル、特に女性数学者のロールモデルがもっと必要だ!という意見を理解できるようになったのです。
先日、G教授にお土産を持って挨拶に行きました。
うちの旦那の同僚なので、卒業してからも会ってはいたのですが、今回の私のキャリアチェンジの報告と、私の数学は彼女がきっかけになったことを感謝しに。
G教授はオフィスで学生をヘルプしているところでした。
「高校の数学教師になろうと思います。」
「Good for you! ちょうどこないだ、エリナのことを考えてたのよ。どうしてだったかしら・・・あ、掃除してたらあなたの昔のファイナルが出てきたの!」
「そうなんですか。(笑)」
「あなたは良い学生だったからよーく覚えてるわ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
こうやって、「こんな人になりたい」と思える人がいることは、ゴールに向かうスピードを速めてくれるし、その人の失敗や成功から学ぶというのは強い武器になります。
私も女の子と数学の距離を縮めるお手伝いを、少しでもできたら良いなと思っているところです。
ステキなお話です!うちの高校に来ていただきたいわ〜。でもポートランドじゃ遠いですね。女性の先生の方が実は男子生徒にとっても話しやすい場合もありそうですよね。私の今の数学の先生も女性でにこやかで優しくてほんと質問しやすいです。これから大学院、楽しみですね!
りょうこさん、こんにちは~!
>女性の先生の方が実は男子生徒にとっても話しやすい場合もありそうですよね。
確かにそうかもしれませんね。
あるベテラン教師によるTEDトークで、私のお気に入りがあるのですが、彼女が言っていた言葉が印象的でした。
“Kids don’t learn from somebody they don’t like.”
そりゃそうだ!と思いましたね。
数学のスキルももちろんだけど、やっぱり人として好かれるというかリスペクトされる人間じゃないと、良い教師にはなれないんだろうなと思いますね。
だから、好きな先生とは卒業してもつながっていたいな、と思いますもん。