日米の算数・数学教育の違い 【続編】
こんにちは、Erinaです。
この記事で、日本とアメリカの算数・数学教育の違いについて書きました。
日本は個人による計算や思考の正確さを重んじているのに対し、アメリカの数学は”discourse” と呼ばれる対話をもとにした思考の発展が中心になっています。
今回はこれをまた少し深め、数学を問題解決のための「道具」という観点で書いてみたいと思います。
数学というのは、日本語や英語と同じような「言語」であり、自分の中の思考や理論を説明するための道具です。
例えば、
2x+3=5
の次が
2x=5-3
だというのも、xの値を見つけるためのステップであり、何を結果として導きたいか?という部分を理解していなければいけません。
「2x+3=5 の次は 2x=5-3」
というステップを知っている子は、これを一つの道具として自分の道具箱(ツールボックス)に持っているということになります。
みなさん、ツールボックスを見たことがあるでしょうか。
建設業なら工具が入っているし、医療現場にも、キッチンにも、そこで使われる一連の道具というものがあります。
何かを作り出したり、直したりする時、素手でやることはほとんど不可能です。なので、そこに「道具」というコンセプトが生まれます。
この「道具」というのは人間の知恵の結晶です。
ハンマーもノコギリもレンチも、泡立て器もしゃもじも、先人たちが必要に応じて、その場にある材料を使って、頭をひねって作り出したものです。これをこういう形にして使ってみたらどうかな?とか、失敗に失敗を重ねて今ある形になったのでしょう。現代の私たちは、そういう過去の人間の知恵を学び、自分自身のツールボックスにそれを蓄えては日常的に使っています。
そういう道具を使って何かを直したり新しいものを作ったりするためには、2つのスキルが必要になります。
それは、
- 道具の使い方 (Know how to use a tool properly)
- 道具の選び方 (Know how to choose an appropriate tool)
です。
道具の使い方というのは、反復練習で鍛えられます。
例えば、ハンマーの使い方が上手になる(つまり釘打ちが上手になる)ためには、何度も何度も釘を打つ練習をしなくてはなりません。
これは日本の算数・数学教育で重視されてきた部分であり、「ハンマーはこうやって使います。釘はこうやって打ちます」と教えられ、生徒はそれを練習するわけです。
では、道具の選び方というのはどういうことでしょうか。
これは自分のツールボックスの中から、「この問題を解決するためには、ハンマーを使おう」と決める段階のこと。
ツールボックスに入っている道具は1つではありません。何種類もある道具の中から、目の前のタスク(課題)に適した道具を自分で選び、もっとも効果的に、効率よく作業しなくてはならないのが現実です。
例えば、
この木片をこの壁に固定したい
↓
釘で止めよう
↓
そのためには、ハンマーを使おう
という決断をしなければならないわけです。
ここで、「この作業にはハンマーを使いなさい」と指定されない限り、自分でツールボックスの中からその場面にあった道具を選ぶというスキルが必要になってくるわけです。そしてこれこそが、問題解決力 (Problem solving) と呼ばれるものです。
アメリカの算数・数学教育ではこの段階が重要視されていて、子供が自分の力で問題を解決するための第一歩を踏み出すことにフォーカスされています。
私がアメリカに来て、数学って面白い!と感じた理由はここにありました。
日本では「この問題はこう解きなさい」、つまり「この問題にはこの道具を使いなさい」と指定される数学に対し、
アメリカでは「あなたの道具はこういうものです。この問題にはどの道具を使ったら良いか自分で決めなさい」という自由な思考を許されていたからです。
日本人がよく、「アメリカ人は数学が苦手」というのを聞きますが、それはやはり「道具の使い方」の部分だけを見ているからで、「この人の釘打ちはあまり上手じゃないな」という判断をしている。
しかし、「どの道具を使っても良いから、この問題を解決しなさい」という手広い問題を出されたとき、「さて、どうやって取りかかろうかな?」というものの見方になるのは、アメリカの数学教育を受けている子供達に断然多いです。
これが日本でいう「やわらかいアタマ」という状態です。
従来のやり方とか常識というものに捉われず、”think outside the box” とかイノベーティブなアイディアはこういうトレーニングが日常的に必要となり、数学に限らず、右を向いても左を向いても「これはこうしなさい」と指定される学校教育では育まれることのない側面でしょう。
やはり何事も「自分で決める」という教育理念がそこにあるかどうか、というのが日米の大きな違いと言えそうです。
では、それを教えるにはどんなトレーニングが必要なのか、次回、書いてみたいと思います。
どうでしょうか。
アメリカにきて、算数で電卓を使えることに驚いたのですが、最近はアメリカは思考力、日本は計算力が重視されているな…と思います。
日米両方の算数のオンラインプログラムに取り組んだのですが、似たような単元でもその問題の傾向の違いに驚きます。アメリカの問題は、一見して国語の問題?と思うような文章量で、どんな仕組みなのかを答えさせたり、考える問題。日本の問題は、とにかく数字が並び、何度も計算をさせ、定着させる印象を受けました。うちの子は、日本式反復学習には拒否反応を示し、繰り返して解くことを嫌がります。学年が進めば、日米の違いもなくなるのか考えていたところなので、興味深い記事でした。
Vancouさん、こんにちは。
そうなんですよね。
アメリカは数学も理科も社会も、かなり国語力が試される問題になってきていて、このブログでも書いているように小さい頃からの読書力が必要です。
読解力と思考力があって初めて、計算力を使える。
なので計算力にはそれほど力を入れていませんね。
私の学校でも、計算ミスにはそれほど目くじらを立てていません。
それよりも式の立て方とか、読み取り方が正しいか、という採点方式です。
「計算機ができることをなぜわざわざ教えるんだ?」という考え方は、アメリカの数学教師には割と普通な気がします。
Erina さん初めまして。
Joeです。私もアメリカの4年制の大学を卒業して、今日本で英語を教えています。
今後は算数や数学を英語を通して教えていきたいと思い、調べていた時にここにたどり着きました。Erinaさんの記事を読んで勉強しております。そこでもっとアメリカの算数について勉強したいのですが、
おすすめの算数の教科書などがあれば教えていただけますでしょうか?
日本の小学生、中学生レベルの算数です。
よろしくお願いします!
Joe
Joeさん、こんにちは。
コメントが遅くなって、大変申し訳ありません。
アメリカの算数の教科書とのことですが、この記事でも書いたように、国語に限らず、日本のような教科書ってないんですよね。
生徒一人に一冊与えられるものではなく、先生が参考に使う教科書が何冊か学校の至る所にあるという感じで、それもどの教科書を使うかって学校によって違います。特に小学校の場合は教科書って見たことがありません。
各学年で何を学ぶかというのは、コモンコアスタンダードに書かれていて、それでよければ、このリンクで見られます。これはカリフォルニア州のスタンダードです。
教師達は、これをもとに教える単元の順番や内容を自分で決めます。
これでヘルプになったでしょうか・・・?
Erinaさん初めまして。高二の娘が夏からカナダに卒業目指して留学します。Pre-Calculus 11から数学をとるらしく、内容を調べていてこちらに辿り着きました。詳細の比較表や内容についてとても勉強になりました!ありがとうございます。質問です。Pre-Calculusが数3の内容だと分かり文系の娘は青ざめています。いきなりそこから始めて理解できるのでしょうか?アメリカでの内容でいいので教えていただけると参考になります!事前に日本で勉強しておくべきかどうかなども教えていただけるとありがたいです。
Mikiさん、こんにちは!
お返事が遅くなり、大変申し訳ありません。
娘さん、もうカナダで頑張っているのでしょうか?
私が娘さんの立場だったら、日本で履修した内容を英語で説明できるように、語彙や数学の表現を練習しておくと思います。
新しい内容は、現地の学生にとっても新しい内容なので、もうそれは来てからの頑張りにかけるしかないですね。
だけど、既習内容においては、忘れている部分やわからない部分をなるべく最小限にしておけるように、英語で復習しておくと良いかと思います。
そこで後々Pre-calculusのクラスでも使える語彙や表現も身につくはずです。
また質問がありましたら、連絡ください。
娘さん、応援しています!
返信ありがとうございます。娘は来週発ちます。いただいた内容、伝えました。あとは本人の頑張りにかけます笑
着いてから質問などあれば、コンタクトページから連絡くださいとぜひ娘さんにお伝えください。
頑張ってください!